【ganas×SDGs市民社会ネットワーク⑥】“迷惑をかけてはいけない風潮”がいじめの元凶? シャンティ国際ボランティア会の三宅隆史アフガン事務局長に聞く

0302土屋くん、三宅氏IMG_0967シャンティ国際ボランティア会(SVA)の三宅隆史アフガニスタン事務局長。アフガニスタンでSVAは、学校の建設や移動図書館などの読書の啓発を行う。

「持続可能な開発目標(SDGs)」を掘り下げる連載「ganas×SDGs市民社会ネットワーク」の6回目は「目標4:質の高い教育をみんなに」(具体的なターゲットはこちら)を取り上げる。アジアで教育・緊急支援を手がけるNGO「シャンティ国際ボランティア会(SVA)」の三宅隆史アフガニスタン事務局長にインタビューした。三宅氏は「日本人の『人様に迷惑をかけてはいけない』精神が、いじめなどマイノリティの排除につながっている」と主張する。

■学校に行かない理由、いじめか・貧困か

――日本の教育の問題点は何か。

「日本が抱える教育問題のひとつに『いじめ』がある。外国にルーツをもつ子どもはいじめの対象になりやすい。不登校になる子どもも増えている。最悪の場合、自殺してしまう。

警察庁によると、1998年に日本の自殺者が年間3万人を超えた。小中高生の自殺者数は年間300人前後で推移する。15~19歳の世代では、自殺は、不慮の事故に次いで2位の死因だ。『学校に行きたくないのに行かなければならない』という気持ちで、いじめにあう子どもは毎日、登校している」

――日本ではなぜ、いじめが大きな問題になるのか。

「日本は、異質な存在に対して不寛容だ。日本社会の不寛容さが、学校でいじめとなって表象化している。社会全体として、マイノリティに対してマイナスな思考をもつ。『人様に迷惑をかけてはいけない』とする風潮が、変わり者を蔑視する流れにつながっているのではないか。朝鮮高校に私学助成金を支給しないことも、日本社会の不寛容さの表れだ」

――日本の社会が不寛容である理由は何か。

「『島国』と『宗教が身近でない』という2つの理由が挙げられると思う。日本は島国で、内向きの外交政策をとってきた。そのため日本の中に同質性が育まれた。また、諸外国と比べると、宗教が日本人の日常生活と密接にかかわっていない」

――日本人は「いじめ」で学校に通えなくなるが、他国はどうか。

「アフガニスタンでは貧困が教育の大きなハードルだ。子どもの30%が小学校に通っていない。卒業できるのは、通学できる70%の子どもの半分。アフガニスタンでは大学までの授業料は無料だが、親の手伝いや働くために学校に通わない子どもは多い」

■娘を守りたい、だから学校に行かせない

――アフガニスタンの教育にジェンダーギャップ(男女格差)は存在するのか。

「アフガニスタンの女子の未就学率は40%。男子の20%を大きく上回る。親の『子を大事に思う気持ち』と『女子を下に見る価値観』の2つが、女子にとって学校に通う障壁になっている。

子を大事に思う気持ちというのは、学校が壁で囲まれておらず、外から丸見えで危ないから、親が子どもを学校に行かせないことにつながる。こうしたケースは少なくない。アフガニスタンには約1万6000の小学校があり、この半分が、日本の戦時中の“青空教室”のようになっている。

男性の教員ばかりの学校にも、親は女子を通わせたがらない。コーランの教えにより、イスラム教徒は家族以外の異性との接触を好まないからだ」

――女子を下に見る価値観とは?

「女子を大切にするのではなく、男性よりも下に見る価値観でいうと、アフガニスタンに残る『早婚の習慣』と関係がある。女子が結婚する平均年齢は14歳だ。親は、自分の子どもを途中まで学校に通わせても、結婚のために途中で退学させてしまう」

――「日本は宗教が身近でない」とのことだが、宗教と国民が身近であることの良い点は。

「宗教の中に『困った人を助ける』教えがあることで、その国が『人様に迷惑をかけやすい』社会になっているケースが多い。タイでは、『マイペンライ(気にしないで)』という言葉をよく聞く。小さないさかいや失敗をしたときに、この言葉をタイ人は頻繁に使う。

タイは上座部仏教の国であるため、タイ人は他人に対して怒らないことで徳を積み、極楽浄土へ行くことができると考える。怒らない行為は、自分自身のためでもある。ただ、マイペンライを言うのは、迷惑をかけられた人ではなく、かけた人。日本の『気にしないで』や英語の『ドント・ウォーリー』とは少し違う」

――アフガニスタンのようなイスラム圏の国はどうか。

「イスラム教にも、困っている人を助けたり、施しをする『喜捨』の精神がある。イスラム教徒には、義務化されている5つの行い(五行)がある。五行を構成するのは、『信仰告白』『礼拝』『巡礼』『断食』、そして困った人を助ける『喜捨』だ」

■イスラム学校マドラサ、アフガンに995校!

――宗教と国民が身近であることの弊害は。

「アフガニスタンには、モスクが運営するイスラム学校『マドラサ』があり、ここに通う子どもも少なくない。アフガニスタンには、小中高合わせて995校のマラドサがある。マドラサでは、普通の公立学校のカリキュラムに加えて、コーランの教えも学ぶ。喜捨の精神などを学ぶという利点がある一方、マドラサはテロ組織『タリバン』誕生のきっかけにもなった」

――どんな経緯でタリバンができたのか。

「旧ソビエト連邦が1979年にアフガニスタンを侵攻した際、パキスタンに400万人の難民が発生した。ムジャヒディンというイスラム戦士が対抗した。ムジャヒディンがソ連軍の撤退を勝ち取ったあと、今度はイスラム戦士のグループ同士が争う内戦状態になる。

タリバンが民衆から支持を得て、勢力を拡大。2001年の米国同時多発テロ(9.11)の後、オサマ・ビンラディンをかくまったことで、国際的に非難される。このタリバンこそ、難民キャンプの中の宗教学校から生まれた」