タイ社会は世代で分断されていた!「SNSを武器にデモを起こす学生」VS「デモを批判する親」

タイの至るところに掲げられているワチラロンコン現国王(ラマ10世)の写真(タイ北部のチェンライで撮影)タイの至るところに掲げられているワチラロンコン現国王(ラマ10世)の写真(タイ北部のチェンライで撮影)

「タイでは、王室に対する考えが親子で違う。だからこのテーマになると親子喧嘩が始まってしまうことが多い」。こう話すのはタイ人で、早稲田大学社会科学部のタンシンマンコン・パッタジット講師だ。タイでは2020年後半から続く王政改革や軍出身の首相の退陣を求めるデモをめぐり、世代で賛否が分かれる傾向がある。若者の多くはSNSでデモを呼びかるなど軍政や王室を批判。だが、親世代の多くは若者が起こすデモを厳しく非難している。

親子で政治の話はタブー

若者と親世代でデモに対する意見が異なる大きな要因のひとつは、国王のイメージの違いだ。親世代はラマ9世(2016年に崩御)、若者はラマ10世(現国王)の下で育ってきた。ラマ9世は、地方への視察や、農村開発など多くのプロジェクトの推進により国民から敬愛されていた。だが、ラマ10世は1年の大半をタイから離れ、別荘のあるドイツで過ごしている。

米経済誌フォーブスが2008年に掲載した記事によると、タイ王室は推定資産350億ドル(約3兆8000億円)と世界で最も裕福な王室とされている。だが、王室の財産を管理する王室財産管理局の年次報告は、ラマ9世時代の2016年を最後に非公表。巨額の資金が何に使われているのか国民には分からない状態だ。

親と子どもで王室や政府に対するイメージが変わるため、家族で政治の話をするのはタブーであることも珍しくないという。「両親と政治の話をすると話がかみ合わない。親は王室を尊敬し、子どもは批判するという対立はよくある」(タンシンマンコン氏)

デモはフラッシュモブ!

首相退陣や王政改革を要求する若者が主導のデモは、突如始まる「フラッシュモブ」のような形だ。デモが終わった後はすぐに解散する。2010年3~5月にタクシン派が打った大規模な反政府デモのような長期の座り込みはない。タンシンマンコン氏は「(座り込みといった行為をしないことで)政府にデモ弾圧する理由を作らせないようにしている」と話す。

デモの形態が変わった理由のひとつには、2010年と今回ではデモの中心的な参加者が異なる点がある。「2010年のデモは農村地帯の東北部や北部の出身者が中心だった。デモのために上京し、一つの場所に集まって生活しながら参加していた。だが今回は都市部の若者が中心。すぐに家に帰ることができる」とタンシンマンコン氏は説明する。

今回のデモは都市部の中間層出身の若者が主導している点も重要だ。「2010年のデモでは農村出身の貧困層が中心だった。今回は(高等)教育を受けている若者がデモをリードしている」(タンシンマンコン氏)

突然始まるデモはSNSを通じて呼びかけている。ソーシャルメディアは、若者にとって情報を得るためになくてはならない存在だ。「ツイッターやフェイスブックをフォローすることで、デモの時間や場所といった情報を手に入れることができる」とタンシンマンコン氏は話す。

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