ビルマ人イスラム聖職者が語る仏教徒との分断「フェイクニュースで加速」

「IYCA」は宗教を通した平和構築活動のほかに、HIVの啓発活動や若者の指導者育成などを行っている「IYCA」は宗教を通した平和構築活動のほかに、HIVの啓発活動や若者の指導者育成などを行っている

「宗教問題ではなく、政治の問題だ」。そう語るのは宗教和解をすすめる市民団体「IYCA」の創設者で、イスラム聖職者(イマーム)でもあるシャインさんだ。2016年にラカイン州で起きた警察施設の襲撃事件に引き続き、先月にビルマ(ミャンマー)北部のラカイン州で発生したロヒンギャ側と治安部隊との衝突を受けて、ヤンゴンに住むムスリムたちは身の危険を感じているという。

2016年の襲撃事件以降、仏教徒によるムスリムへの差別行動が増えていると感じている。シャインさんがムスリムの友人だけでも、道を歩いているだけで「ファッキンムスリム」と言われたり、「おい、カラー(ムスリムに対する差別用語)」と暴言を吐かれたりしたことがある。シャインさん自身も服に唾を吐かれたことがあるが、争いを避けるために「黙って耐えるしかなかった」という。特に、ひげを伸ばしている人やヒジャブを身に着けている人は、外出の際に仏教徒の目を気にして、不安を感じているという。あるムスリムのタクシードライバーの男性は、「ここ最近身の危険を感じている。今までにはなかったのに」と不安を口にしていた。

「ビルマで起きているのは、宗教が原因ではない。政治の問題だ」とシャインさんは断言する。シャインさんによると、軍事政権時代から政府は、自らへの批判をそらすためムスリムへの敵対心を植え付けてきたという。「政府関係のフェイスブックページがムスリムに悪いイメージを持たせるようなフェイクニュース(嘘の情報)を流すこともある。政府がムスリムへの差別感情を煽っている」というのだ。例えば、大統領府のゾーテーさんはツイッターでロヒンギャが自らの家に火を放つ動画を投稿した。しかし、動画に移っていた女性が服装からロヒンギャではないと各国のジャーナリストから指摘され、動画は事実無根であると批判されている。

それに加え、フェイスブックなどのSNSを通じて、仏教徒コミュニティーはムスリムコミュニティーの悪い噂を、ムスリムコミュニティーは仏教徒コミュニティーの悪い噂を流しあっているとシャインさんは続ける。2016年時点でのミャンマーにおけるネット普及率は89パーセントであることを考えると、誰もがインターネット上のフェイクニュースを目にする可能性があり、真に受けてしまうおそれが十分にある。仏教徒コミュニティーとムスリムコミュニティーがお互いに流す偽情報が原因で、分断が進んでいるのが現状のようだ。

フェイクニュースを投稿する人がいなくなれば、仏教徒コミュニティーとムスリムコミュニティーの溝を埋めることができるとシャインさんは考える。民政移管後、庶民が自由に発言できるようになった一方、フェイクニュースが氾濫しているミャンマー。「噂が隣人との関係を破壊してしまっている。仏教徒もムスリムもお互いが真実を語るべきだ」とシャインさんは語っている。

市民団体「IYCA(Interfaith Youth Coalition on Aid)」を創設者で責任者であるシャインさん。ムスリムと仏教徒の関係が悪化しているのは「フェイクニュースが原因だ」と話す

市民団体「IYCA(Interfaith Youth Coalition on Aid)」を創設者で責任者であるシャインさん。ムスリムと仏教徒の関係が悪化しているのは「フェイクニュースが原因だ」と話す