ミャンマーのごまを高付加価値に! 創業160年の老舗・ごま油企業の挑戦

岩井の胡麻油のロゴ。江戸時代から受け継がれる信用と技術でミャンマーへの進出に挑戦する岩井の胡麻油のロゴ。江戸時代から受け継がれる信用と技術でミャンマーへの進出に挑戦する

「岩井の胡麻油 株式会社」を知っているだろうか。横浜市に本社を置く、実に江戸時代から続いているごま油の老舗メーカーだ。2017年に創業160年を迎えたこの会社はこのほど、国際協力機構(JICA)の支援を受けて、ミャンマーへの進出に向けた現地調査を開始する。「長年培ってきた技術と経験を使って現地のごまの品質や生産性の向上を援助して、ウィンウィンな関係を築きたい」。そう話すのは、8代目社長の岩井徹太郎氏。とはいえ、これまで海外に進出して失敗した日本のごま油企業は数知れず、海外に工場を持つことは業界ではタブーとされてきた。2月3日、横浜市内で開かれた講演会で事業の狙いを話した。

■実は肥沃なごまの一大生産地

アジア最後のフロンティアともいわれるミャンマー。その中部にはごまの栽培に適した広大な乾燥地帯が広がっており、実はごまの世界的な大産地であることはあまり知られていない。日本もその輸出先のひとつだ。一方ミャンマー国内では、ごまは輸出されるばかりで、加工して付加価値をつける取り組みはあまり行われていない。現在ミャンマー国内で消費されている食用油の大半は隣国のマレーシアから輸入される安価なパーム油で、国内で生産されたごまのほとんどは加工されずに低価格で輸出されている。そのため、多くのミャンマーのごま農家の多くは収入を満足に得られず、貧困状態だ。

この状況に目を付けたのが岩井の胡麻油だ。同社の一番の強みは、創業以来守り抜いてきた伝統製法と技術の高さだ。温度と時間が出来映えを分ける重要な「焙煎」の作業でも、長い歴史のなかで蓄積されたノウハウを持ち、化学的製法や添加物を一切使わず、香りの高いごま油を作り続けてきた。日本市場で負けない高品質を作り出すこうした加工技術を現地に導入できれば、ミャンマーの農家にとっても利益の拡大が見込まれ、現地の貧困削減も期待できるはずだと考えた。

2017年7月、岩井社長はミャンマーを訪問し、現地の生産方法が全く近代化されていないことに驚いた。「現地の農家はトラクターなどの農機を購入できず、買うメリットも知らない。いまだに牛や手作業に頼る農作業だった」と岩井氏。生産技術から向上を図ることで、大幅な生産増にもつながることに可能性を感じた。

■後押しするのはJICAの支援スキーム

同社の進出を後押しするのはJICAの「中小企業海外展開支援事業」だ。途上国の開発ニーズと中小企業の製品や技術のマッチングを支援するため、2014年から行われている。背景には、日本国内での人口減少による市場規模の縮小と、途上国の市場拡大に伴って、日本企業の海外展開のチャンスが拡大していることがある。

同事業では初期段階の「基礎調査」(850万円上限)や具体的な事業を検討する「案件化調査」(3000万円上限)、最終段階である「普及・実証事業」(1億円上限)の大きく3段階に分けて支援を行っている。

岩井の胡麻油はまずは案件化調査として、1年をかけてミャンマー政府の農業灌漑省をはじめとした政府機関やごま農家と協力して、ミャンマーでのごまの栽培、収穫、乾燥から流通に至るバリューチェーンを調査することになっている。調査を経て現地への本格的な進出の検討につなげたい考えだ。

一方で、ごま企業の海外進出には過去に苦い歴史がある。1980年代後半、ごまの大生産地だった中国へ多くの日本企業が工場を建設したが、中国の市場の自由化が進んだ結果、ごまの値段が下がったことで多くの農家がごまの栽培をやめ、最終的に日本から進出した企業の全ては中国から撤退したという。そうした教訓から、ごま油企業が海外に自社工場を持つことはほとんどないとされている。「この事業が成功できる保証はない。だからこそ、これからどこの地域で、どのくらいの規模で事業ができるか、しっかりと見極めたい」と岩井氏は語った。