フン・セン首相の後継者は誰? “どこよりも気が早いカンボジア政局予想”を出してみた

シェムリアップ郊外フン・セン首相の人気はカンボジア国内で驚くほど低いのが現実。7月29日の総選挙で民意は反映されるのだろうか。写真はカンボジア・シェムリアップ郊外の農村で暮らす女性

7月29日にカンボジアで実施される総選挙(下院議員選挙)では、30年以上政権を握るフン・セン首相(65)の続投は固いとの見方が大勢だ。だが世界が注目するのは、いつになるかはともかく、フン・セン首相の後継者は誰になるかという点。現時点の有力候補を探ってみた。

カンボジア人反政府活動家のブンリーさん(仮名)によると、ポスト・フン・センの“二強”は、フン・セン首相の三男フン・マニ下院議員(35)と長男フン・マネット中将(40)。兄弟対決の構図の様相を見せているという。

フン・マニ氏は2013年7月の総選挙で、南部のコンポンスプー州から立候補し、初当選した下院議員。まだ1期しか務めていない。ブンリーさんは「20年ぐらい前からずっとフン・マニ議員は、父のフン・セン首相と一緒に行動している。フン・セン首相は彼に首相の座を譲りたいに違いない」と予想する。

フン・セン首相を悩ますのは、権限の委譲がスムーズにいきそうもないことだ。最大の理由はフン・マニ氏の素行不良。フェイスブックでフン・マニ氏の女性スキャンダルが世間に広まったこともあり、国民からの人気は高くない。

対照的に、とりわけ与党「カンボジア人民党」のなかで支持を集めているのがフン・マネット中将。米国の名門、陸軍士官学校(ウエストポイント)をカンボジア人で初めて卒業した経歴の持ち主だ。

フン・セン首相の息子たち以外にも候補はいる。その筆頭が、ソー・ケン第二首相兼内相(67)。国民や与党の政治家からの支持は高い。ただネックはフン・セン首相よりも年上であることだ。

人民党所属のソー・ケン第二首相はこれまで、野党との仲介役を担ってきた。人民党支持者が野党の政治家を襲う事件が2015年10月に起きた際も、最大野党(当時。現在は解党に追い込まれた)だった救国党のサム・レンシー党首(当時)と会談を重ね、関係の改善に力を注いだ。フン・マニ氏のようにスキャンダルもなく、クリーンなイメージが強い。

フン・セン首相にとってみれば、ソー・ケン第二首相はまさに目の上のたんこぶ。「だけどフン・セン首相は、人気者のソー・ケン第二首相を辞めさせられない。もし彼を解任したら、今度こそ首相の地位が危うくなるからだ」(ブンリーさん)

第4の候補は、チア・ソパラ国土整備・都市化・建設相(65)。1998~2003年にプノンペン市長を務め、当時から高い人気を誇る。プノンペンに2014年にオープンしたイオンモール1号店が建設工事に入る際も、建設予定地の住民一人ひとりに賠償金を払うよう調整した。

ブンリーさんは「以前の行政は、平気で『火をつけて追い出すぞ』と脅して立ち退きさせていた。その点、チア・ソパラ氏の政策は好感がもてる」とブチア・ソパラ人気の理由を分析する。

だがチア・ソパラ氏は2003年2月、治安を維持できなかった責任をとって市長の職をフン・セン首相に解任される。そのきっかけとなったのは、タイの女優が「アンコール遺跡はタイのもの」と言ったといううわさが広がり、怒ったカンボジア市民が暴徒化して駐カンボジア・タイ大使館を襲撃したこと。

解任はこの事件のわずか1カ月のことだった。チア・ソパラ氏はその後、駐ミャンマー・カンボジア大使や農村開発相などを歴任。2016年4月から国土整備・都市化・建設相を務める。

世界が注目するカンボジアの総選挙まであと1カ月半。5年前の前回(2013年7月)の総選挙で人民党は議席を大きく減らした。国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、フン・セン首相はその直後、「(自らの)死、あるいは働けないほど身体が不自由になることだけが、(フン・セン首相を)政権からおろす方法だ」と話したという。

7月29日の選挙は、かつての最大野党・救国党が解党されたため、野党が事実上ないなかで実施される。ブンリーさんは「私は選挙に行かない。ベトナム政府に媚を売り、またわいろの横行を許す人民党は支持できないからだ。でもフン・セン首相が万が一首相を辞めたらカンボジアは大変なことになるだろう」と複雑な心情をのぞかせる。