電気自動車は環境にやさしいのか、 ニッケル製錬所の稼働でフィリピン・パラワン島に健康被害?

都内で開かれたセミナー「スマホの真実-電池の裏の人権侵害・環境破壊」に登壇したFoE Japanの波多江秀枝・委託研究員都内で開かれたセミナー「スマホの真実-電池の裏の人権侵害・環境破壊」に登壇したFoE Japanの波多江秀枝・委託研究員

フィリピン・パラワン島南部にあるリオツバ村で皮膚病や頭痛などの健康被害が深刻化している。リオツバ村は、リチウムイオン電池(電気自動車の動力源)に利用されるニッケルの産出地。現地で水質調査を実施した環境NGO「FoE Japan」の委託研究員である波多江秀枝さんは「ニッケル製錬所や採掘現場から近くの川に流れ出た排水に含まれる六価クロムが基準値を超えている。長期的に健康被害を起こす可能性がある」と語る。リオツバ村のニッケル事業には大平洋金属や住友金属鉱山などの日本企業も深くかかわっている。

■WHO基準値の6倍!

リオツバ村でニッケル製錬所が稼働したのは2005年。健康被害を聞いてFoE Japanは09年に、ニッケル製錬所の近くを流れるトグポン川の水質調査を始めた。その結果、発がん性があり、皮膚疾患や肝臓障害などの原因になる六価クロムが検出。その量は世界保健機関(WHO)が定める安全基準値(水1リットル当たり0.05ミリグラムの六価クロム)の6倍にあたる0.3ミリグラムにもなることが分かった。

リオツバ村の漁民によると、ニッケル製錬所が操業して以来、入江一帯の魚介類の収穫量が減ったという。FoE Japanがトグポン川の底質を調べたところ、六価クロムなどの重金属を高濃度で含むヘドロ状の物質が大量に堆積していることが明らかになった。

被害はリオツバ村だけではない。製錬所から10キロメートル以内に位置する5つの村でも、住民の約8割が悪臭を訴える。また皮膚病や頭痛、咳に悩む人も少なくないという。

■日系の出資比率は9割

リオツバ村のニッケル事業と日本企業のかかわりは深い。鉱山の開発に大平洋金属が1960年代に着手し、77年から日本への輸出を開始した。日本へのニッケル総輸出量の約1割を占める。ニッケルの採掘事業に対する日系企業の出資率は56.5%にも及ぶ。

また2005年に稼働した製錬所への出資比率は、住友金属鉱山、三井物産、双日の日系3社で9割。リオツバ村のニッケル事業を主導するのは日本だ。

波多江さんは「彼ら(日系企業)は自分たちが(トグポン川の水質汚染の)起源であることを一切認めない」と憤る。出資額の最も多い住友金属鉱山は2012年に「提携先の現地企業と協力し、六価クロムの流出軽減に努めている」との説明文書を公開。このなかで鉱石置き場のシートかけや活性炭の設置が具体的な改善策として示したが、「有効な手段かどうかはまだ不透明だ」(波多江さん)という。

■鍵を握るのは消費者

住友金属鉱山は、リチウムイオン電池に必要なニッケル酸リチウムの開発にパナソニックと共同で成功し、2013年に増産すると発表した。ニッケル酸リチウムを用いた電池は、米国の電気自動車専業メーカー、テスラモーターズ(現テスラ)の車に搭載する。ちなみにテスラの時価総額は2017年4月時点で世界の自動車メーカーで6位だ。

環境にやさしいとされる電気自動車への注目度は世界的に高まるばかり。その一方で、電池の原料となるニッケルの開発現場で広がる健康被害。波多江さんは「消費者の立場から、ニッケルの開発現場がどうなっているのかを日系企業に聞いてほしい。それがプレッシャーとなり、住民の生活の安全を保障することにつながる」と、消費者一人ひとりの行動が必要だと訴える。