宗教への不信募らせるトルコの若者たち、イスラム離れ広がる

「信仰を放棄した。顔を明かすことも恐れていない」と話すイブラヒムさん(トルコ・ディヤルバクルで撮影)

イスラム教徒(ムスリム)が国民の9割を占めるトルコでここ数年、イスラム教を放棄する若者が増えている。この傾向が特に強いのが、高い教育を受けた層。「クルドの都」と呼ばれるトルコ南東部のディヤルバクルに住むクルド人で、求職中のイブラヒムさん(28)は「十字軍やIS(イスラム国)を見ればわかるように、いつの時代も宗教が戦争を起こす。信仰で救われるはずの信者がなぜ犠牲にならないといけないのか」と語る。

イブラヒムさんが棄教したのは、大学生だった25歳のとき。厳格なムスリム家庭で育ったため、棄教する前は、家族と毎日一緒にモスクで礼拝していた。「イスラム教は絶対的宗教だと思っていたから、イスラム教以外はすべて否定していた」。イブラヒムさんは当時の自分をこう振り返る。

イブラヒムさんの信仰心が揺らぎ始めたきっかけは、ISなどのイスラム過激派の台頭だ。何のために神に祈っているのか分からなくなったと打ち明ける。

「歴史をたどると、宗教に起因する戦争は今に始まったことではない。中世では十字軍遠征。それが現代ではISやアルカイダに変わっただけだ。中東ではムスリムが戦争をし、多くの命が奪われている。ムスリムが少ない日本は経済が発展しているし、戦争もない」

イブラヒムさんの信仰喪失に拍車をかけたのは、建国以来「世俗主義」を掲げてきたトルコがここ数年、イスラムの厳格化へ舵を切っていることだ。

エルドアン政権が進める義務教育改革では、公立の学校が相次いでイスラム指導者養成学校へと転換。この学校では、一般の公立校に比べて理数系科目の授業数が少ない。代わりにコーランやムハンマドの生涯など、宗教教育に多くの時間を割く。そのため、科学的、世俗的教育を重視するムスリムから強い反発を招いている。

トルコでは2013年、アルコール類を夜間売ることを禁じる酒類規制法が施行された。「世俗社会や欧米文化に触れたトルコの若者は、社会の流れに逆行して加速するイスラムの厳格化の抑圧に耐えきれない。イスラム教から離れ始めた」(イブラヒムさん)

理神論者(神の存在は認めるが宗教を否定するという思想をもつ人)となったイブラヒムさんは今、親せきの葬式以外でモスクを訪れることはない。祈りも捧げない。「もし目の前に豚肉があっても、抵抗なく食べるだろう」と笑顔を見せる。対象的にイブラヒムさんの母は「息子はいまもムスリム。そうでなければ天国へ行けないのだから」とイブラヒムさんの棄教を認めていない。

「イスラム教が優勢な社会で、棄教したと周囲に明かすのは勇気のいること」とイブラヒムさん。トルコにどれだけ棄教した人がいるのかは分からない。ただトルコのテレビ番組でも最近は、「理神論者の異常発生」と題したて議論が多く交わされるようになった。若者のイスラム離れが徐々に広がっていくのは間違いなさそうだ。