ガレキの焼却灰から建材を作る? パレスチナ人女性がガザでイノベーションを巻き起こす!

NGO「ソーシャル・イノベーション・ワークス」が都内のJICA地球ひろばで主催したイベントで報告するマジッドさん。米ロサンゼルスで11月に開かれるTED Women2018に登壇する予定。「TEDの場を借りて、ガザの200万人の声を世界に届けたい」と顔を輝かせるNGO「ソーシャル・イノベーション・ワークス」が都内のJICA地球ひろばで主催したイベントで報告するマジッドさん。米ロサンゼルスで11月に開かれるTED Women2018に登壇する予定。「TEDの場を借りて、ガザの200万人の声を世界に届けたい」と顔を輝かせる

10年で3度の武力侵攻を受け、軍事封鎖で人や物資の移動が極端に制限され「天井のない監獄」といわれるパレスチナ・ガザ地区。住民の半数以上が支援に依存するガザの状況を変えようと、一念発起したパレスチナ人の女性起業家がいる。崩れたガレキの焼却灰を原料に、家の建材となるコンクリートブロックを作るマジッド・マシャラウィさん(24)だ。事業化のきっかけとなったのは、日本のNGO「ソーシャル・イノベーション・ワークス」がガザで開いたビジネスコンテストだった。

■真実を知った者には責任がある

マジッドさんの原体験は14歳のとき、自身のそばで起きたパレスチナ人青年の自爆事故だった。その後、争いを失くそうとガザの難民キャンプで平和ワークショップをして回った。比較的裕福な家庭で育ったマジッドさんにとって、初めて訪れた難民キャンプの様子はショックだったという。

「難民キャンプには希望がない。真実を知った者には責任があるから、何かしなければならい」。こう語るマジッドさんが起こしたアクションは、イスラエル軍の空爆でできたガレキの焼却灰からコンクリートブロックをつくる会社を興すことだった。

「ガザには、支援に依存して暮らす人が人口の半数以上いる。国(ガザ地区)が自立するためには支援に頼らず、自分たちの力で経済を支えないといけない。ビジネスは持続的で効率的に仕事をつくるには最も良い方法」。マジッドさんは起業した理由をこう説明する。

■廃墟で材料を見つけた!

コンクリートブロックを作るアイデアは、2015年にマジッドさんがひらめいたものだ。前年の夏、イスラエル軍は50日間にわたって空爆や地上攻撃でガザを侵攻し、多くの命を奪っただけでなく、17万戸の家屋や発電所も破壊した。ガザの大学で土木工学を専攻したマジッドさんは、捨てられたガレキの焼却灰を見て、コンクリートブロックを作ることを思いついた。

「コンクリートの主な材料は、焼却灰と水と砂利。ガザで1日に6~10トン出る焼却灰を使えば、イスラエルから原料を輸入しなくても作ることができる。ガレキ製のコンクリートブロックは、原料を輸入するより20%安く、軽く、また環境にも良いことから“グリーンケーキ”と名付けた」(マジッドさん)。ガザの街を再建するには、1日4万個ものコンクリートブロックが必要といわれ、建材の生産は急務だ。

グリーンケーキの事業化が実現したのは2年後の2017年だ。マジッドさんは、グリーンケーキ事業を進めるスタッフの雇用を生み、税金も払ったと自信をのぞかせる。2017年には3万個のグリーンケーキを生産・販売し、2万5000ドル(約280万円)の利益を上げた。25人の新卒社員を採用して、2018年1月からは4つの工場を稼働させ、量産体制に入った。

■日本の企業とNGOが支える

高い壁で閉ざされたガザで生まれ育ったマジッドさんが、初めて外の世界へ出たのは2017年、23歳のときだった。行き先は日本。「まるで別の惑星のようで、街も人も違って見えた。恵まれた日本と、そうではないガザを比べ、不公平だと思った」と話す。

来日のきっかけは、日本のNGOソーシャル・イノベーション・ワークスがガザで主催するビジネスコンテストで優勝したことだった。

実は、優勝した際のグリーンケーキは強度不足が大きな課題だった。ソーシャル・イノベーション・ワークスのサポートで来日すると、前田建設工業から技術支援を受け、米国の建築基準である「国際建築基準(IBC)」に認定された。強度を高める工夫は、グリーンケーキに加えるガレキの量を増やすことだった。

グリーンケーキの生産を実現させると、マジッドさんは世界で起業家に贈られる賞を立て続けに受賞する。2017年にアラブ首長国連邦(UAE)政府主催のエミレイツ・エナジーアワードを受賞。デンマークのNPO主催のインデックスアワードと欧州連合(EU)主催のスタートアップアワードではファイナリストに選ばれた。グリーンケーキは、ガザの人たちの家の再建を助けるだけでなく、ガザの現状を広く知らせる機会となった。

マジッドさんはすでに、グリーンケーキに続く新しいビジネスを始めている。電力不足に悩むガザで、太陽光発電システムのパッケージ「サンボックス」を売ることだ。またマイクロクレジット(担保なしの少額融資)を普及させたいとも語る。

「グリーンケーキ」とマジッドさんが名付けたコンクリートブロック。イスラエル軍のガザ侵攻で廃墟となった建物のガレキを燃やした灰を使い、ガザの再建を目指す(マジッドさんのプレゼンスライドより)

「グリーンケーキ」とマジッドさんが名付けたコンクリートブロック。イスラエル軍のガザ侵攻で廃墟となった建物のガレキを燃やした灰を使い、ガザの再建を目指す(マジッドさんのプレゼンスライドより)