ブラジル中部を“世界屈指の農業地帯”に変えたJICAのセラード開発、その裏で先住民と小農が殺される

都内で開かれた「モザンビーク・ブラジル・日本 3ヵ国民衆会議2018」に出席した社会・教育支援団体連盟(FASE)のジアナ・アギアール氏(右)と土地司牧委員会(CPT)のイゾレッチ・ウィシニエスキー氏(左)。ブラジル・セラードで起きている“知られざる事実”を報告した都内で開かれた「モザンビーク・ブラジル・日本 3ヵ国民衆会議2018」のセッションのひとつ「日本の私たちと今世界で『大豆』をめぐって起こっていること」(主催:国際NGO・GRAIN)に出席した社会・教育支援団体連盟(FASE)のジアナ・アギアール氏(右)と土地司牧委員会(CPT)のイゾレッチ・ウィシニエスキー氏(セラードを守る全国キャンペーンにも所属)。ブラジル・セラードで起きている“知られざる事実”を報告した

ブラジルから初来日した社会・教育支援団体連盟(FASE)のジアナ・アギアール氏と土地司牧委員会(CPT)のイゾレッチ・ウィシニエスキー氏は、このほど都内で開かれた「モザンビーク・ブラジル・日本 3ヵ国民衆会議2018」(主催:3カ国民衆会議実行委員会)に登壇した。このなかで、ブラジル中部の熱帯サバンナ地帯「セラード」を“世界最大の大豆生産地帯”へと変貌させた国際協力機構(JICA)主導のプロジェクトについて話し、先住民や小農が投資家や企業に土地を奪われ、殺されることもあると告発した。

■「水がめ」か「不毛の大地」か

ブラジルの国土の約20%を占めるセラードに対する見方は、立場によって異なる。先住民や小農にとってセラードは重要な水源だ。木々は地中深くに根っこを張り巡らせ、降り注いだ雨を蓄え、長い乾期にも耐えられるだけの水を各地へ供給する。そんなセラードを先住民らは、南米大陸の「水がめ」と呼ぶ。

対象的な見方をとるのは日本・ブラジル両政府だ。セラードは農業に適さない「不毛の大地」と言い続けてきた。土壌が、農作物の生育を妨げる強酸性だからだ。大豆の輸入先を確保したい日本政府と食料を輸出したいブラジル政府は1979年から、セラードを大豆の一大生産地へと開発する「日本・ブラジル・セラード農業開発協力プロジェクト(プロデセール=PRODECER)」を推進。石灰を大量に投入して土壌を中和するなどして、大豆を栽培してきた。広大な土地を大豆畑に一変させたこのプロジェクトは、日本とブラジルの推進者の視点では成功と見なされ、「奇跡の開発」と高く評価される。

ところがセラードでは、樹木を伐採したことから水源の枯渇が起き始めた。地表がむき出しになり、水分は蒸発して地下水脈に水がたまらなくなった。大豆を育てるために川や地下水から大量の水をくみ上げることも追い打ちをかける。CPTのウィシニエスキー氏は「雨期に川となる場所が川にならなくなった。このまま開発が進めば毎年10の川がなくなる」と切迫する状況を訴える。

「7790人が殺された」

日本とブラジル両政府は2009年、プロデセールの成功に続いて、アフリカ南東部に位置するモザンビークの北部にも、大規模な大豆畑を作るプロジェクトを立ち上げた。「プロサバンナ(ProSAVANA)」だ。ブラジルのセラードとモザンビークの対象地は緯度も近く、同じ熱帯サバンナ地帯。さらにブラジル、モザンビーク両国ともポルトガル語が公用語という共通点もある。ところが小農の反対運動が激しく、予定通り進まない。その結果、大豆の増産計画は再びセラードへとんぼ返りすることになった。

日本・ブラジル両政府は2016年、セラード地帯の中でもアマゾン周辺地域を対象とする「MATOPIBA(マトピバ)地域開発プロジェクト」の推進に合意した。マトピバとは、ブラジル北東部にあるマラニャオン、トカチンス、ピアウイー、バイーア各州の頭文字をとったもので、多くの先住民族が暮らすエリアだ。4州の面積はあわせて73万8698平方キロメートルと、ブラジルの国土の約8%(日本の国土の約2倍)を占める。このプロジェクトでは輸出用の穀物や大豆を生産するだけでなく、輸出港までの道路といったインフラも整備する。

大豆の生産量を上げるには農地の拡大が欠かせない。大豆は1990年代後半、気温が低い低緯度でも栽培できるよう品種改良されたため、開発可能な土地は拡大した。だが大豆自体の改良で生産量を上げる方法は限界に達しているという。そのため「(作付面積を拡大したい)ブラジル政府と企業は、森林保護区や先住民の土地に開発の圧力をかけている」とFASEのアギアール氏は言う。すでにセラードの多くが農地に変えられていて、開発可能な土地はアマゾンに隣接する地域に限られるからだ。

こうした一連の計画に先住民や小農の抵抗は根強い。ウィシニエスキー氏によると、マトピバプロジェクトの裏で、森と土地を守るために抵抗する先住民や市民社会組織のリーダーたちは殺されてきた。「殺害されたリーダーの数は2017年に71人、2018年は18人。(セラード開発も含め)1985年から記録が残っている土地・水・労働権利の争いを分析すると、これまでに7790人が殺された」とウィシニエスキー氏は憤る。

首謀者は、警察や地元政府と裏でつながる投資家や企業だ。投資家や企業は、警察や地元のギャング、仕事のない若者を雇い、コミュニティの人たちを襲撃させているという。「殺害を命令した者は誰一人捕まっていない」とウィシニエスキー氏は懸念を示す。