ギター人気に押され「ビルマの竪琴」がピンチ! インテリアに成り下がってしまうのか?

竪琴を弾く楽器屋店主のウーニョーミンさん竪琴を弾く楽器屋店主のウーニョーミンさん

小説・映画「ビルマの竪琴」(竹山道雄)で水島上等兵が弾いていた弓型の竪琴は、アウンサンスーチー氏と並び、日本人にとってミャンマーを象徴する存在だ。小説の舞台だった1940年代から70年ほど経ったミャンマーのヤンゴンにある楽器屋。その隅のほうに竪琴はひっそりと並べられていた。近年のギター人気に圧倒され、ミャンマー人の間では深刻な竪琴離れが進んでいる。

「竪琴を買うのは、以前はほとんどミャンマー人だった。それがいまでは客の半分が外国人。外国人は演奏用としてではなく、インテリアとして買い求める」。こう話すのは、ヤンゴンの楽器屋の店員ニーニーニョーミンさん(20)だ。

外国人が竪琴を好むのは、独特な弓型の形状や、鮮やかな赤と金の装飾が美しく、またミャンマーを代表する楽器であるため。インテリアとして最適だと思われているのだ。インテリア用の竪琴の値段は7万5000チャット(約5000円)。棹の長さは50センチメートルほど。安価なパイン材を使っている。一方の演奏用は30万チャット(約2万円)と価格は4倍。棹は1メートルほどと長く、使われる木材も高価なチークだ。

竪琴をミャンマーでは「サウン・ガウ」と呼ぶ。本来の用途はもちろん楽器。木製の胴と棹に16本の弦が張ってある。左手で弦を押して音階を調整し、右手の指ではじいて演奏する。

竪琴の起源は8世紀のピュー時代。ミャンマーのそれぞれの王朝でも名奏者が宮殿に呼ばれ、当時の王から高い評価を受けてきた歴史がある。神話にも登場する楽器だ。いまは竪琴の演奏が政府主催の全国伝統芸能コンテストの競技になるなど、竪琴の伝統の保存にミャンマー政府も躍起になっている。

だがそれでも近年は、ギター人気を背景に、演奏用の竪琴の売り上げは落ちる一方。主な理由は、ミャンマー人の好みが竪琴や太鼓を用いた伝統音楽から西洋風の現代音楽に移ったこと、竪琴は持ち運びにくく高いことの2つだ。とりわけ都市部の若者の間では竪琴離れが顕著。竪琴の買い手はいまや、娯楽が少なく、また竪琴を教えられる年長者が多い地方の出身者がほとんどだ。

深刻なのは、インテリア用の竪琴の人気が高まっても、演奏用を含めた竪琴全体の売り上げが下がっていること。「10年前は1日1つ売れていた。だけどいまは1週間に1つしか売れない」とニーニーニョーミンさんは嘆く。

ミャンマー人の竪琴離れに危機感をもつ人は少なくない。そのひとりが、伝統音楽を録音する活動をしてきた歌手のディラモアさんだ。若者が伝統音楽に触れる機会が少ないことを問題視し、このままでは伝統は失われてしまうと訴える。

楽器屋の店主であるウーニョーミンさん(60)は、竪琴の文化をなくさないために必要なこととして「興味をもってもらう」「竪琴の価値を理解してもらう」の2つを挙げる。そのために有効なやり方は学校の授業で竪琴を紹介し、体験してもらうこと。だがミャンマーに音楽の授業はない。

「竪琴は、中国製の安いギターが2つ買えるくらい高い。でもミャンマーの職人がひとつずつ作った本当に価値のあるもの」とウーニョーミンさん。近代的なビルが次々に建つヤンゴンにある楽器店の中で、ギターのそばにひっそり置かれた竪琴。だが、ポロンポロンと素朴だがハリのある美しい音を奏でるウーニョーミンさんの顔は誇らしげだった。

ギターが並ぶ楽器屋の奥に演奏用の竪琴が並ぶ(ミャンマー・ヤンゴン)

ギターが並ぶ楽器屋の奥に演奏用の竪琴が並ぶ(ミャンマー・ヤンゴン)