コロンビア貧困地域の社会課題に日本文化で挑戦! 男性が演じるかぐや姫で”結婚しない人生”を肯定

女装でかぐや姫役を演じたフリアン・ラミレスさん(コロンビア・メデジンで撮影)女装でかぐや姫役を演じたフリアン・ラミレスさん(コロンビア・メデジンで撮影)

コロンビア第2の都市メデジンに、女性役を男性が、男性役を女性が演じる「かぐや姫」で貧困地域の社会課題に挑戦する団体がある。日本が好きな学生や社会人が集まる「メデジン日本クラブ」だ。スペイン語と日本語を使ったかぐや姫の演劇を通じて、貧しい子どもたちの夢を広げ、女性たちの自由な選択を後押しする。この活動は、毎年12月に行われることから「サンタプロジェクト」と呼ばれる。

「私の勝ちです。ですから、あなたとは結婚しません!」。主役のかぐや姫を演じたフリアン・ラミレスさん(25)は、このセリフが1番好きだと言う。かぐや姫が、当時の常識をくつがえし、帝(みかど)の求婚を断る場面だ。「このセリフを通じて、差別や固定観念に苦しむ女性たちに、女性だからといって誰かに人生を決められるのはおかしい、自由に生きていいのだと伝えたい」

ラミレスさんは、身長177センチメートル、体重82キログラムと大柄で、「かぐや姫」のしとやかなイメージとは似ても似つかない。しかし彼は、おばあさん役に挑戦したオーディションでその演技力を見込まれ、主役に抜擢された。異国の物語の異性役を演じるという難題に対し、彼は「難しかったけど楽しかった」と振り返る。配役が決まった7月から5カ月間、日常生活で女性の話し方や立ち姿、仕草を観察した。また、かぐや姫の歴史を調べ、スタジオジブリの映画も見た。「彼女(かぐや姫)になりきりながら、自分の中で彼女と共通している部分、明るくておだやかなところを引き出すように意識した」

ラミレスさんの演技力は本物だった。劇を見た子どもに、「女の人ですか?」と不思議そうに尋ねられたという。男女の配役を入れかえた意図は「女性らしさ」「男性らしさ」という性差を、観客に気づかせることだ。劇の最後には、ラミレスさんらが改めて今回のテーマを伝え、メッセージを明確にした。

コロンビアは、2018年のジェンダーギャップ指数は40位と日本(110位)よりはるかに上位にランクインする。高官やマネージャークラスへの女性の社会進出が進む一方で、貧困地域には根強い女性差別が残る。「女性はエンジニアにはなれない」「サッカーは男のスポーツだ」「結婚するのが当たり前」――。妻は夫より地位が低く、家庭内暴力(DV)の被害者にもなりやすい。しかし、これらの課題は必ずしも明るみに出ていない。

ラミレスさんは、サンタプロジェクトをきっかけに、メデジン郊外のアヒサルという国内避難民居住区を訪れた。彼は、居住区の現状を目の当たりにして驚いたという。「女性のエンパワーメントは大事なことだ。しっかりと教育をして、負の連鎖を断ち切らなければならない」

同じことは、児童養護施設の子どもたちにもいえる。このプロジェクトは、ふだん異なる文化に触れる機会が少ない彼らに日本文化を紹介し、彼らの“世界に対する窓”を開ける。それまで存在さえ知らなかったものを見せ、将来の選択肢を増やす。「何でも自由に、やりたいことができるんだと伝えたい。このプロジェクトで、アヒサルの人たちや子どもたちに新しい価値観を浸透させたい」。ラミレスさんはこう語る。

サンタプロジェクトは2018年、10周年を迎えた。毎年異なる演目に挑戦し、国内避難民居住区や児童養護施設の子どもたちを招いて披露する。また、メデジンに住む日本人やコロンビア人らに呼びかけ、集めたプレゼントを児童養護施設の子どもたちに届ける。

2019年も、ラミレスさんはサンタプロジェクトに参加したいと言う。「テーマは平和。コロンビアだけでなく、混乱の続くベネズエラにも平和が訪れるよう願う」。2019年1月時点でインフレ率169万%、難民300万人以上を出すベネズエラ。多くの難民をベネズエラに受け入れてもらった歴史のあるコロンビアには、すでに110万人以上が流れこむ。元々同じ国だったこともあり、他人事とは思えない隣国の惨状に胸を痛めながら、彼は平和への思いを強くする。

女性が演じる侍(左)とラミレスさん演じるかぐや姫(右)

女性が演じる侍(左)とラミレスさん演じるかぐや姫(右)

サンタプロジェクトのメンバーたち

サンタプロジェクトのメンバーたち