自動車整備士のベネズエラ難民、おいの病気で働く術を失いコロンビアにやって来た

0811渡辺さんP1ブライアン・アレキサンドスさん。ベネズエラのプロ野球チーム「マガジャネス」の熱烈なファン

コロンビア第2の都市メデジンに、ベネズエラ難民15人を雇う自動車整備会社がある。社名はメカイレス。そこで整備士として働くブライアン・アレキサンドスさん(26歳)は2017年9月に、ベネズエラ北部のバレンシアから逃れてきた。きっかけは、ベネズエラでかわいがっていたおいが病気になり、彼を治療するために、商売道具である自動車修理工具一式を売り払い、働く術を失ったことだ。

おいが急病に襲われたのは2016年。薬を買うにも、当時(2017年平均)のベネズエラのインフレ率は862.6%。1時間ごとに薬の値段が上がっていき、そう簡単に買うこともできない。バレンシアにある大きな病院で診療してもらうことになったものの、数百人の患者が、いつ訪れるかわからない治療を待っている状況が続いた。

命を救うためには一刻も早い治療が不可欠。「診療の順番はお金で買うしかなかった」(ブライアンさん)。ブライアンさんは整備士の命というべきスパナ、レンチ、プライヤといった自動車修理工具一式をすべて売り払った。

そこで得たお金は75万ボリーバル(スーパーインフレのため日本円に換算することが困難)を病院にわいろとして払った。その結果、おいの治療を進めることができ、治った。ただ商売道具を失ったブライアンさんは、整備士としてベネズエラ国内で働けなくなってしまった。

困り果てたブライアンさんは父に相談。メデジンで整備士として働いていた父は、ブライアンさんがコロンビアへ入国できるようパスポートと特別滞在許可証(PEP)を取得する費用12万5000ボリーバル(スーパーインフレのため日本円に換算することが困難)をすべて払ってくれたという。また、父が働いていた職場のメカイレスを紹介してくれた。

入れ替わりでブライアンさんの父は、ベネズエラに帰国した。病気の妻(ブライアンさんの母)のそばにいる必要があるためだ。

「コロンビアでの生活は、メカイレスからもらうお金が出来高込みで80万ペソ(約2万5000円)以上あって、ベネズエラにいたときよりも良い」とブライアンさん。1年前にベネズエラから妻を呼び寄せ、また子どももいないことから2人で問題なく暮らしているという。

2年故郷を離れていたブライアンさんは12月にベネズエラへ一時帰国する計画だ。父、母、姉はもちろん、病気から快復したおいにも会う予定だ。学生時代に3番キャッチャーで活躍していたブライアンさんは「元気になったおいとキャッチボールがしたい」と人懐っこい笑顔で語る。夢はバレンシアへ戻り、昔のような生活を送ることと目を輝かす。

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ブライアン・アレキサンドスさんの油まみれの左腕ドクロのタトゥー