農業よりも都会の生活のほうがいい? 世界2位の花大国コロンビアで若者の花農家離れが深刻に

花祭りのパレードで使われるシジェタ。デザインはひとつひとつ異なる花祭りのパレードで使われるシジェタ。デザインはひとつひとつ異なる

世界2位の切花輸出を誇る「花大国」コロンビアで今、若者の花農家離れが進んでいる。コロンビア第2の都市メデジンでは8月2~11日、コロンビアを代表する「花祭り」が盛大に開催された。だがその裏で、花農家の後継ぎ問題が深刻化しているという。

■農民は恥ずかしい?

「勉強をする若者は、農民であることを恥ずかしいと感じる。彼らは農業よりも大学の博士課程を好む」。こう話すのは、花祭りのハイライトであるパレードで使うカーネーションやマーガレットをメデジン郊外で育てる花農家を営むレオン・ガスシアさん(51)だ。

恥ずかしさが生まれる原因のひとつは農民への偏見だ。

コロンビアの首都ボゴタ出身で、花祭りパレードを見に来ていたスペイン語・日本語の通訳・翻訳者フリアン・モントージャさんは「農民は年収も教育レベルも低いというイメージが強い。だから都会の人に見下される。そのせいで農民は恥ずかしさを覚え、街に出てしまうのではないか」と推測する。

農家の子どもたちは、幼いころは家族と一緒に農園を手伝っても、高校を卒業する年齢になると辞めてしまうことが多い。ただ農村から街へ出ても大学や大学院の学費が払えずに中退し、建築現場で働く若者も少なくないというのが現実だ。

■政府の援助はゼロ

花農家の低い収入は実際、若者離れの一因となっている。

ガスシアさんの仕事は、花祭りのパレードで使う、花を敷き詰めた円盤型のデコレーション「シジェタ」を作ることだ。シジェタの制作費用はひとつひとつ異なる。たとえばガスシアさんが作る大人用の大きな丸いシジェタの原価はひとつ約100万ペソ(約3万4000円)。売値は約220万ペソ(約7万4800円)だ。ひとつにつき120万ペソ(約4万800円)の儲けが出る。だが従業員へ払う給料を差し引くと、利益はわずかだという。

ガスシアさんは「花農家に対するコロンビア政府からの援助はゼロ。借金もあるし、未払いの税金も多くある。(文化を守るためには)援助がほしい」と語る。

国内の経済格差を示す指標「ジニ係数」(1に近いほど格差が大きい)をみると、コロンビアの数字は0.511(2015年)。日本の0.379(2011年)やアルゼンチンの0.417(2017年)と比べても、都市と農村の格差の大きさは一目瞭然だ。

157カ国を対象に米国中央情報局(CIA)が調査したところ、コロンビアのジニ係数ランキングはワースト12位だった。ラテンアメリカに限ってみると、ハイチ(ワースト4位、0.608)、グアテマラ(ワースト10位、0.530)、パラグアイ(ワースト11位、0.517)に続くワースト4位だ。ちなみに全体のワースト3はレソト(0.632)、南アフリカ共和国(0.625)、ミクロネシア(0.611)。

モントシージャさんは「都会の生活はどんどん便利になっていく。取り残される農村と都市の格差はどんどん広がっていくのではないか」と話す。

■英語で外国人を案内したい

ガスシアさんの姪カレン・サパタさんは、高校に通いながら花農家で働く12歳の女の子だ。花祭りではシジェテリータ(花祭りのパレードでシジェタを運ぶ女の子)になる。「将来は花農家の伝統を受け継ぎたい。この仕事が好きだから。英語を使って外国人観光客を案内できたらいいな」と目を輝かす。

カレンさんは同時に、弁護士になるという夢ももつ。だがこの2つをかなえるのは現実的に厳しい。ガスシアさんは「子どもが大学を目指す場合、学費を稼ぐために親は花農家を辞め、街へ働きに出る必要がある」と話す。そうなると花農家の伝統は途絶えてしまう。

コロンビアの大学の学費は意外と安くない。1学期あたり約280万~1000万ペソ(約9万500~34万円)、学費の高い大学だと同1200万~1600万ペソ(約40万8000~54万4000円)もする。

ちなみにコロンビアの最低賃金は1カ月約82万8000ペソ(約2万8000円)。単純に計算すると、学費が安い大学の1年の学費でも、低賃金労働者の半年分の稼ぎに相当することがわかる。

■シジェテロは高齢者ばかり

花祭りのパレードでシジェタを背負って歩く花農家の人を「シジェテロ」と呼ぶ。花農家の若者離れが深刻化するなか、シジェテロの高齢化が進む。

花祭りのパレードを見ていた小学校教師のファニー・サラサルさん(50)は「シジェテロには若者が全然いない。高齢の人ばかりだ。幼い子どももいるが、それは大人たちに流されてやっているだけ」。

大人用のシジェタの重さは80~100キログラム。高齢者が炎天下でそれを担ぎ、電車の4駅分を歩くのは酷。世代交代が欠かせないが、そこで浮かび上がるのが後継ぎの問題だ。

「昔の花祭りは家族総出で準備していた。だが今は違う。花祭りの伝統と知識が受け継がれていないのではないかと心配だ」。メデジン市民の誇りのひとつである花祭りが将来どうなっていくのか、サラサルさんはこう懸念する。

パレードでシジェタを運ぶシジェテロ。80~100キロの重さのシジェタを担いで歩く

パレードでシジェタを運ぶシジェテロ。80~100キロの重さのシジェタを担いで歩く

メデジン郊外のピエドラ・ゴルダで花農家を営むレオン・ガスシアさん(右)。子どもたちと一緒に花を育てることで、花への愛情を育もうと努力している。左は、姪のカレン・サパタさん。外国語を勉強して旅行者をパレードに案内したいと語る

メデジン郊外のピエドラ・ゴルダで花農家を営むレオン・ガスシアさん(右)。子どもたちと一緒に花を育てることで、花への愛情を育もうと努力している。左は、姪のカレン・サパタさん。外国語を勉強して旅行者をパレードに案内したいと語る

メデジンの小学校の教師であるファニー・サラサルさん(右)。家族で花祭りパレードを見に来た。学校では、花を含めたコロンビア文化の大切さを子どもたちに教える

メデジンの小学校の教師であるファニー・サラサルさん(右)。家族で花祭りパレードを見に来た。学校では、花を含めたコロンビア文化の大切さを子どもたちに教える