日本語で「モンゴルの言い伝え」がわかる絵本が30以上あった! 作者は東京在住15年のモンゴル人女性

ボロルマーさんが実際に絵を描くようす。草原に馬やラクダ、羊、ヤギがいたり、モンゴルの伝統的住居ゲルが並んでいたりする

日本人の子ども(4~7歳)を対象に、モンゴルの言い伝えをもとにした絵本や紙芝居を30作品以上手がけるモンゴル人女性が日本にいる。フリーランスの絵本作家(画家)バーサンスレン・ボロルマーさん(40)だ。文章を担当し、画家でもある夫のイチンノロブ・ガンバートルさん(40)と2008年から二人三脚で活動して2022年で15年目を迎える。

 デンマークやベネズエラでも出版

ボロルマーさん夫婦がつくる絵本の特徴は、モンゴルの伝統的な言い伝えを生かすことだ。

たとえば「バートルの心のはな」(小学館、2010年)には「葉や花につく朝露を集めてお茶を沸かすと母親に恩返しができる」。「おかあさんとわるいキツネ」(福音館書店、2011年)だと、「寝ている赤ちゃんをずる賢いキツネから守るため、赤ちゃんの父親がフェルト製のキツネの飾りを上から吊す」という言い伝えが出てくる。

言い伝えは、最新作「空飛ぶ馬と7人のきょうだい」(廣済堂あかつき、2021年)でも顕在だ。話のテーマは北斗七星。モンゴルでは北斗七星を、流れ星と同じく願い事をかなえる星と信じる。昔からモンゴル人は、夜の散歩や家畜探しの目印にもしてきた。

言い伝えだけでなく、モンゴルの文化や歴史を描いた作品もある。そのひとつが、日本人の間で人気が高い「トヤの引っ越し」(福音館書店、2015年)。遊牧民の少女トヤが家族と引っ越しをする旅物語だ。ボロルマーさんによれば、モンゴルの遊牧民は、天候や草原に生える草の量によって、1年に最低4回は住む場所を変える。

歴史物だと、チンギスハーンがモンゴル帝国を作り上げた時から現代までの800年を扱った「モンゴル草原800年」(福音館書店、2018年)が代表的だ。大きいダンボール箱2~3個分の資料をモンゴルから取り寄せて読み込んだり、モンゴルに帰国した際に親せきや専門家に話を聞いたりして人物や衣装の情報を集めたという。

「出版までの期間は普通2~3年だが、これは2012年から取りかかって6年もかかった。最も苦労した作品」とボロルマーさんは振り返る。

絵本は日本以外にも、モンゴル、韓国、台湾、中国、中国・内モンゴル自治区、カナダ、フランス、デンマーク、スウエーデン、ベネズエラで翻訳出版されてきた。

絵を描くことが私のすべて

ボロルマーさんはいま、芸術活動だけの収入で安定した生活を営む外国人を対象とする在留資格「芸術ビザ」をもつ。ただ、「本や芸術関係の仕事しかできない。仕事がない時は、モンゴルにいったんお金を取りに帰ったり、モンゴルに住む家族からお金を借りたりしたこともある。自転車をこぎ続けるアスリートのような暮らし」と明かす。

絵本作家に月給はない。出版が正式に決まってから契約し、印刷が終わったらお金が支払われる。1年に3~4冊の作業を並行して進める日々だという。

「15年間ずっと、絵本を作ったり、挿絵を描いたり、講演会や展覧会をしたり、絵を売ったりしてなんとか日本で生活してきた。(苦労はあっても)絵本を作る、絵を描くことが私のすべて。仕事であり趣味や楽しみ、生活そのもの」(ボロルマーさん)

モンゴル人絵本作家のバーサンスレン・ボロルマーさん(右)。夫のイチンノロブ・ガンバートルさん(左)が文を書く

モンゴル人絵本作家のバーサンスレン・ボロルマーさん(右)。夫のイチンノロブ・ガンバートルさん(左)が文を書く

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