タイは年30日「病欠で有給」とれる? 労働問題に悩む日系企業をGVA法律事務所がサポート

GVA法律事務所・タイオフィスの藤江大輔代表(バンコクの事務所で撮影)GVA法律事務所・タイオフィスの藤江大輔代表(バンコクの事務所で撮影)

タイに進出した日系のスタートアップ・中小企業が直面する法律問題を解決する会社がある。藤江大輔氏(34)が代表を務めるGVA法律事務所・タイオフィスだ。藤江氏は「タイの法律を知らないゆえに(社内で問題が起きても)泣き寝入りする企業が多い。だがそこで諦めず相談に来てくれれば、納得のいく和解ができるケースもある」と語る。

■ウソをつかせない仕組みを

日本とタイの法律の違いで問題になるのが「有給休暇」をめぐる考え方だ。

タイの労働法は「1年以上勤務した従業員には年6日以上の有給休暇を付与する」と定める。この条文をもって、最低限の有給休暇しかタイ人に与えない日系企業は多い。

この結果、何が起きるのか。「病気になった」と会社にウソをつき、仕事を休むタイ人も労働者も出てくる。タイの労働法は「病欠で年30日まで有給休暇がとれる」と定める。この制度を使うわけだ。タイ人が休みがちという問題は多くの日系企業にとって大きな悩みとなっている。

そこで藤江氏が提案するのは、ウソを黙認するのではなく、「ウソをつかせない」仕組みづくりだ。シンプルな例でいえば、有給休暇の日数を少しでも増やすこと。それだけでタイ人の休みが減った企業も多いという。

■解雇補償金は払わなくて済む

有給休暇以外で多く相談を受けるのは「解雇補償金」の問題。これもまたタイ特有の法律だ。

解雇補償金とは、120日以上勤続した労働者に対し、解雇する際に払うべき、勤続年数に応じた金銭補償額。勤めた期間が120日以上1年未満の場合は30日分の給料を、1年以上3年未満だと90日分を払う必要がある。

解雇補償金をめぐるトラブルも日系企業の間で絶えない。あるレストランの場合、解雇補償金をめぐってタイ人スタッフと対立していた。

問題の根源はささいなことだった。レストランの経営側は、スタッフを近くの別の店へ異動するよう求めた。ところがそのスタッフは頑なにそれを拒否。これまでの店に出勤し続けたという。

このスタッフの狙いはもしかすると解雇補償金を手にすることだったかもしれない。会社からクビにされれば、お金がもらえるからだ。経営側も、解雇補償金を払うしかないと認識。困り果ててGVA法律事務所へ相談にやって来た。

この問題についての藤江氏のアドバイスは、このスタッフへの異動命令は正当であり、「解雇補償金を払う必要はない」というもの。レストランに対しては、そのスタッフに警告書を繰り返し出し、それでも従わなければ懲戒解雇に踏み切るべき、と伝えた。その結果、スタッフは自ら退職したという。

解雇補償金の相談は1カ月に5回程度は寄せられる。日系企業にとって解雇補償金の問題はそれだけ厄介ということだ。

■フレックス制がぴったり

日系企業にとって一番身近な問題といえば、時間どおりにタイ人が出勤してくれないことだ。

藤江氏は「自分自身もタイで生活していて、厳密に時間を管理するのは非常に難しいと気付いた」と言う。その理由は、バンコクでは電車の遅れや交通渋滞がひどいためだ。

時間を守ることが難しいのなら、いっそのこと「フレックス制」にしてしまえ、というのが藤江氏の発想。GVAでは実際、フレックス制を採用しているが、それによってスタッフが怠慢になるといった問題は起きていないという。「遅刻を交通渋滞のせいにさせない、ウソをつかせないという意味でフレックスは有効だ」と藤江氏は語る。

■制度より「態度」!

タイオフィスを2016年末に立ち上げて約3年。藤江氏は「タイの法律を理解し、制度を整えることも大事。だがそれより大事なのはタイ人の仕事観をきちんと理解し、タイ人を信用すること。制度より態度だ」と話す。

藤江氏によれば、タイ人は「人生を充実させるために仕事がある」と考える。「仕事だからちゃんとやれよ」といった日本的なやり方は通じない。タイの法律のプロとしてこれからもスキルアップしていきたいと熱く語る藤江氏。「他の国に行くことも、日本に帰ることも考えていない」