ベナン南西部のクッフォ県ザフィー村にベナン伝統の占い師がいる。ベナン発祥のブードゥー教のシェフ(最高責任者)の息子のエケ・ラファエルさん(34)だ。長い見習い期間を経て3年前に独立。当たるとの評判が口コミで広がり、1年で700人あまりを占う行列のできる占い師になった。
謎めいたベナン伝統占い「ビジョン」
貝がら、木の実の殻、ワニ皮の切れ端、ライオンの背骨のかけら、ドアの鍵、大小いろいろな種、ジュースのふた、紙きれ‥‥怪奇なアイテムの山の前に座るラファエルさん。中でも重要なのが、コーラナッツ(かつてコカ・コーラに入れていたカフェインを含む神聖な実)、リギー(特別な種類のアブラヤシの実)、子安貝(宝貝)、象の皮の4種。客の悩みに応じて使い分けるという。
このベナン伝統の占いを「ビジョン」(フランス語で「視覚」の意)と呼ぶ。
ラファエルさんのもとには村人からのありとあらゆる悩みが持ち込まれる。「悪夢を見たが何を意味するのか」「家族が大きな病気になった。理由を知りたい」「仕事が上手くいかない」「好きな人に自分も好かれたい」「夫が暴力を振るう」などさまざま。人生で何が間違っているのか、何をすればよいのかの答えを求める。
お金と種をのせた二枚貝に向かって客が願いごとをささやくと、占いが始まる。シャイな微笑みをたたえるラファエルさんは、すべてを受け入れるような柔らかな雰囲気。何でも相談してしまいそうだ。客からのリクエストは恋愛占い、悪運から逃れるための占い、幸運を得るための占い、の順に多いのだという。
結婚相手を占いで決める場合もある。男性2人のうちどちらと結婚するか迷う女性が、ラファエルさんのところにやってきた。ラファエルさんは「一人と結婚すると子どもをもたず数年後には離婚する。別の一人と結婚すると幸せになる」と伝えた。占いを守ってその一人と結婚した女性は、コートジボワールで暮らす幸せな夫婦になったという。
悲しい結末を迎えた客もいる。ある日、タクシー運転手が占いをしにやってきた。「あなたは交通事故を起こすかもしれないので、7日間は家にいて運転しないように」とラファエルさんは告げた。ところが運転手は占いを守らず2日後に車を運転してしまった。ほどなく衝突事故を起こし、フロントガラスに頭を打って帰らぬ人となった。
「彼を救えなくてとても悲しい」とラファエルさん。決して忘れられない客となった。