バングラデシュで作った牛革の財布やバッグなどを低価格で提供し、日本のECサイトでたびたびデイリーランキング1位を獲得している人気レザーブランドがある。ビジネスレザーファクトリー(社名も同じ。本社:福岡市)だ。ダッカに構える自社工場では、仕事がないシングルマザーや障がい者を雇う。工場で働くシングルマザーのシャミンさんは「おかげで毎日3食食べられるようになった」と語る。
■1年で給料が1.5倍!
ビジネスレザーファクトリーの製品を作るのは、バングラデシュの貧しい人たちだ。およそ600人の従業員の多くは、親のいない若年層やシングルマザー、障がい者。工場長のマスンさんは「他の工場では働けない人しか採用しない。本当に生活に困っている人に仕事を与えるためだ」と語る。
工場の入り口の前には毎日、働きたいと希望する人たちが列を作る。ビジネスレザーファクトリーはひとりひとり面接し、ここで受け入れるしかないと判断した人を毎日1~2人採用するという。
工場は、従業員が仕事をしやすい労働環境に配慮されている。シングルマザーのために工場内に託児所やアフタースクール(放課後に児童を預ける学童保育)を作った。車いすを使う障がい者が作業しやすいよう、机の高さを調整できるようにしたほか、工場の入口にはスロープも設置した。
従業員の給料は、その人の仕事のレベルに合わせ、毎月支払われる。新人の場合は他の工場と変わらない6000タカ(約7500円)。3~6カ月勤務すると8000タカ(約1万円)に昇給する。それ以降は本人のスキルや役職によって給料が決まり、努力した分だけ昇給する仕組みだ。1年で給料が1.5倍ほどに増える人もいる。
ビジネスレザーファクトリーの給料制度についてマスンさんは「バングラデシュでは、給与の未払いも多い。他の工場ではそもそも毎月支払われること自体が珍しい。収入を安定して入ることで、計画的に貯金ができる。突然の支出で家計が崩壊するリスクが減る。これは貧困から抜け出すうえで大切」と話す。
この工場で働き始めて1年経つシャミンさんは「毎日3食食べられるようになった。生活が安定し、安心感がある」と話す。彼女は足に障がいがあったため、夫に暴力を受けた経験をもつ。
シングルマザーのパンナさんは「働く前は夢なんてなかった。でもいまは努力して昇給を目指すようになった。子どもを学校に通わせ、質の高い教育を受けさせたい」と前を向く。
■日本以外にも出店したい
ビジネスレザーファクトリーは、ビジネスを通じて社会問題解決を目指す会社ボーダレス・ジャパンが立ち上げた会社のひとつ。バングラデシュの貧困層にたくさんの雇用を生むことを事業の目的とする。
現地での雇用を少しでも増やすには、販売先となる日本市場をいかに攻略するかがカギだ。そこで原口瑛子社長がとった戦略は、同情心に訴えるのではなく、商品とサービスの質で勝負すること。豊富な商品ラインナップや、名前やイラストを商品に刻印するサービスが支持され、いまや年間の売り上げは15億円に達した。これは、35社あるボーダレスグループのなかでも断トツの数字だ。
だが設立当初は品質を向上させるのに苦労したという。創業者のファルクさんは「私を含め、ビジネスレザーファクトリーの創業メンバーはみんな、革製品を作るのにまったくの初心者だった。そこで、日本で100年以上続く老舗革製品メーカーを訪ね、2カ月にわたって全行程を学んだ。バングラデシュに戻ってからもサンプル作りを繰り返した」と5年前を振り返る。
品質を上げる取り組みはいまも続く。日本の熟練職人にバングラデシュの工場へ来てもらい、新商品の生産に必要な技術指導を直接受ける。出荷前には必ず、日本の品質基準に沿った品質チェックを行う。こうして生まれた商品の数々は丈夫で長年使えるものばかりだ。
牛本革の名刺入れは2999円、ビジネスバッグは1万4999円。リーズナブルな価格と製品の質の良さが人気を集め、2014年の創業からわずか6年で、国内に直営店舗を18店舗構えるまでに成長した。
いまは日本国内だけで販売するビジネスレザーファクトリー。「雇用をもっと生むために店の数を増やしたい。中長期的にはアジアの他の国への進出も考えている」と原口社長は意気込む。