月給20万円! 難民申請者の雇用を目的とするパソコンのリユース会社が横浜にあった

ピープルポートのオフィスで小型電子機器をていねいに解体する西アフリカ出身の難民申請者の社員(ピープルポート提供)ピープルポートのオフィスで小型電子機器をていねいに解体する西アフリカ出身の難民申請者の社員(写真提供:ピープルポート)

パソコンやスマートフォンのリユース・リサイクル事業を営み、日本に逃れた難民申請者を積極的に雇うスタートアップ企業がある。ボーダレス・グループ傘下のピープルポート(本社:横浜市港北区)だ。同社の青山明弘社長は「経済的に貧しく、信頼できる人もいない孤立した難民申請者の力になりたいと思った。パソコンやスマホのリサイクルは労働集約型なので、たくさん雇うことが可能。また手で分解する作業は日本語もさほど使わない。難民申請者でも即戦力として活躍できる」と、この事業を立ち上げたきっかけを語る。難民申請者の社員はまだ1人しかいないが、日本人の大学出の新卒社員と同レベルの月給20万円を払っているという。

■12月の売上目標220万円

ピープルポートの設立は2017年12月。社員数は、日本人3人、西アフリカ身の難民申請者1人の合計4人だ。10月の売り上げは約60万円(8割がリユース、2割がリサイクル)と赤字だが、12月は220万円を目標に据える。達成すれば、単月ベースで黒字化する。難民申請者の雇用も増やしていく計画だ。

同社のビジネスモデルはこうだ。まず、ピープルポートが企業や個人からパソコン、スマホなどの小型電子機器を回収する。企業から回収する場合、企業間での無料取引は法的に複雑なため、企業が横浜市内の3つのNPO法人にパソコンを寄付し、それをピープルポートがパソコン1台200円、スマホ1台100円で買い取る形をとる。

3つのNPO法人とは、貧困・虐待を理由に教育機会や居場所を失った子どもを支援する3keysPIECESキズキだ。「買い取り価格は実質的に寄付になる。またパソコンを処分したい企業にとっては少しでも社会貢献につながるほうがいい」と青山社長は話す。

回収したパソコンは、品質が良ければ整備してリユース品としてオンラインショップで販売する。そうでないものは手で分解し、金や銀、銅、各種レアメタルといった具合に金属別に資源会社に売る。パソコン1台を分解した場合、金属資源として売ると700円ほどになる。

■リユースを選んだ4つのワケ

青山社長が事業を立ち上げる際にこだわったのは、難民申請者をいかに多く雇えるかだ。それを実現するためにリユース・リサイクル業を選んだ理由は4つある。

1つ目は、日本語が上手くなくても即戦力となること。パソコンを整備したり、分解したりするのに日本語は必要ない。部品の番号も英数字なので、管理する際のデータ入力も簡単だ。

2つ目は、労働集約型であること。パソコンの整備や分解は手作業が多い。そのぶん人手を必要とする。雇用を多く生みたいという青山社長の目的と合致する。

3つ目は、日本人と接点がもてること。パソコンの整備作業は日本人スタッフとの協力が必須だ。また、難民申請者も業務に慣れてきたら企業や個人宅へ行き、電子機器を回収するため、そこでコミュニケーションが生まれる。ピープルポートが横浜・菊名の住宅街に、ガラス張りのオープンな雰囲気のオフィスを携えたのも、地元の人との交流が始まることを期待しているから。「小学生が毎日夕方に、オフィスのガラス越しでスタッフに笑顔であいさつしてくれるなど、小さな交流はすでに芽生えてきた」(青山社長)

4つ目は、日本社会への貢献。リサイクルは、日本に眠る資源を再活用するだけでなく、新たな資源を採掘しないで済む。環境省によると、日本の家庭には、スマホやパソコンをはじめ不要な小型電子機器が3億台眠っているという。「処分の方法がわかりにくい小型電子機器を、手軽に無料で回収してくれ、資源も無駄にせず日本の環境のためにやってくれているんだ、と地域の人から感謝されることが大事。この感覚が、ピープルポートで働く難民申請者にとって仕事のやりがいにつがなる」(青山社長)

ピープルポートは2019年にも、リサイクルや難民について知ってもらうため、近所に住む子どもたちをオフィスに呼び、「携帯解体ワークショップ」を開く予定だ。子どもたちにスマホを持ってきてもらい、難民申請者の同社社員と一緒に手で解体していく。「難民というより“お兄さん”と一緒にリサイクルを体験することを切り口に、難民の方を少しでも身近に感じてもらえれば嬉しい」と青山社長は話す。

ピープルポートがすごいのは、難民申請者を雇って終わりではないこと。日本で暮らしていけるように、日本語学習や家探しといった日常生活もサポートする。日本語教室をオフィスで週に3回30分ほど就業後に開く。講師は日本人社員だ。文法など、普段のコミュニケーションでは足りない部分を体系的に教える。

同社で働く難民申請者の20代男性は「家探しも手伝ってもらえた。そのおかげで、スーパーも近くて便利なところに住めている。日本語も勉強できるし、ありがたいよ」と話す。月給20万円の1割を毎月、母国に6人残る家族に仕送りする。

■紛争地に近い国へ進出したい

青山社長の夢は、ピープルポートを海外に進出させること。「日本にやって来る難民の方をどうするかという問題もあるが、紛争地に近い国にリサイクル工場を建てたい。受け皿が整っていない日本に来るのは難民の方にとって良い選択肢とは言えないので」と説明する。

法務省によると、2017年の日本の難民認定率は、申請処理数1万1361人に対して認定されたのは20人とたったの0.2%。申請してから結果が出るまでも平均2~3年かかる。就労許可証を得た難民申請者は合法的に仕事できるものの、働き口も不当に安い月給の単純作業か、建築物の解体作業などの極端な重労働と、安心した生活を送ることが難しいのが現状だ。

難民認定が下りると、政府から日本人とほぼ同じレベルの待遇が受けられる。認定後、難民には更新可能な1~3年の定住者としての在留資格が与えられ、半年間の日本語学習プログラムにも参加できる。ピープルポートは日本政府の支援を受けられない「難民申請者」を雇用の対象としている。

「ピープルポートはまだ小さな会社。だが難民の方の雇用数を増やすために事業を大きくしていきたい」(青山社長)。同社は年末年始の大掃除に合わせた12月10日~1月31日、家庭向けに小型電子機器回収キャンペーンを実施中だ。不要となったパソコンやスマホを会社や学校などに5台以上集めることを条件に、ピープルポートが無料回収する。

ピープルポートは2021年までに年間の売り上げ10億円、70人の難民申請者を雇うことを目標に掲げる。

ピープルポートの青山明弘社長(28)。「せめて避難先の日本で、難民の方が幸せな生活を送れることで、次世代に恨みなどのマイナスな感情を残さないようにしたい」と話す(写真提供:ピープルポート)

ピープルポートの青山明弘社長(28)。「せめて避難先の日本で、難民の方が幸せな生活を送れることで、次世代に恨みなどのマイナスな感情を残さないようにしたい」と話す(写真提供:ピープルポート)