あしながウガンダが運営するエリート塾、 アフリカの遺児を日米欧のトップ大学へ進学させる 

あしながウガンダ心塾の授業は5人程度の少人数制。塾生は大学合格に向けて切磋琢磨するあしながウガンダ心塾の授業は5人程度の少人数制。塾生は大学合格に向けて切磋琢磨する

早慶やプリンストン大など、日本や欧米、ブラジルのトップ大学に進学させる無料のエリート塾がウガンダにある。日本のNGOあしながウガンダが2015年から運営する「あしながウガンダ心塾」だ。サブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカの英語・ポルトガル語圏の28カ国から毎年、遺児を募集。約1800人の応募者から30人弱を選抜する。塾生は8カ月にわたってウガンダで合宿生活を送る。あしながウガンダの今村嘉宏代表は「将来はリーダーとして母国、アフリカを引っ張ってほしい」と語る。

■教師は学生インターン

あしながウガンダ心塾があるのは、首都カンパラから北西へ13キロメートル行ったところにあるワキソ県ナンサナだ。

倍率およそ60倍の難関をくぐり抜けてきた塾生らが心塾で学ぶのは8カ月間。大学へ出願するまでの6カ月の「勉強合宿」と大学に進学する前の2カ月の「準備合宿」がある。

勉強合宿の期間は7~12月。塾生は、進学したい大学を選んだり、試験科目の授業を受けたりする。準備合宿は翌年の5~6月。欧米の大学は9月から始まるため、進学前に合宿をする。日本の大学に進学する塾生は、入学が4月となるためこの合宿に参加しないこともある。

勉強合宿では毎日朝9時から夕方4時まで授業を受ける。科目は、英語、数学、物理に加えて、受験に必要な経済や国際情勢など。授業時間以外にも、自習や授業内容について質問する時間がある。

授業の内容は、進学先の国や希望する専攻によって変わる。理系に進む塾生は応用数学を、日本の大学を目指す塾生は日本語を学ぶ。日本へ渡る前までに日本語検定5級(N5)レベルに達することを目指す。日本語を教えるのは、あしながウガンダがスタッフとして雇う日本人だ。

数学や化学など、日本語以外の授業の教師を務めるのは、日本や米国、ブラジルなどの大学・院で学ぶ学生インターンだ。その数は半年で延べ30人。英語で授業をする。

授業の質を担保するために重要なのはインターン選びだ。オンラインで模擬授業を実演してもらい、採用するかどうかを決める。採用基準は、英語力、授業の構成など。

授業の経験が浅いインターンに教師を任せることについて今村さんは「教科の知識だけでなく、大学のようすや実情もあわせて塾生にレクチャーしてもらうことを期待している。一石二鳥だ」と話す。

■リーダーシップ教育も

勉強合宿は2カ月単位の3学期制だ。

1学期にやることは大学の選択。塾生はほぼ毎日、10人いるあしながウガンダのスタッフと個別にミーティングをする。本当に学びたい分野と適切な学部を、1万8000以上あるといわれる世界中の大学から選ぶ。

「エンジニアになりたい塾生は多数いる。だがその理由の多くは母国で就職しやすいから。ミーティングを重ねることで、母国の無電化地域に配電網を整備したいといった明確な動機が見えてくる」(今村さん)

2学期からは本格的な試験対策に入る。この期間は、これまで以上に科目授業に重点を置く。

3学期には、未来のリーダーを育てることを目的にした「リーダーシップ教育」にも力を入れる。内容は主に2つだ。

1つめは、有識者との意見交換。ウガンダ元国務相に登壇してもらったこともある。

2つめはコミュニティ活動だ。まず、1グループ5~6人で興味のある課題を選択。地元のNGOなどを訪れ、活動内容や理念を学ぶ。その中で、各グループがあらかじめ設定しておいた課題の解決策を検討するという。

■条件はアフリカに戻ること

あしなが心塾はウガンダのほか、西アフリカのセネガルにもある。フランス語圏の塾生はセネガル心塾で学ぶのだ。

あしなが心塾には毎年、サブサハラの47カ国から約2000人の応募がある。募集は英・ポルトガル語圏とフランス語圏で分かれる。応募人数はそれぞれ約1800人、約1000人。最終的には1カ国1人、合計で40人程度しか選ばれない狭き門だ。

あしなが心塾で学べる条件は、高校を卒業した18~22歳で、親を病気や紛争等で失くした遺児であること。海外の大学を卒業したら5年以内に、アフリカに戻るのがルールとなっている。

選考でまずポイントとなるのは2本の小論文だ。テーマは「親を失ってどんな困難に直面したか」と「大学卒業後に母国にどう貢献したいか」。それぞれを英語で200ワード程度書く。それ以外に成績などもみて判断する。

書類選考を通過した応募者は面接に進む。今村さんは「母国に貢献する志をもっているかどうかを見る」と話す。

■大学の学費・生活費まで支給

特筆すべきは、あしなが心塾に入ると、合宿の費用だけでなく、大学4年間の学費と生活費まですべて、あしながウガンダが「返済なしの奨学金」として支給することだ。奨学金はすべて、あしなが育英会への寄付金からまかなっているという。

あしながウガンダ心塾を運営するうえで、塾生が遺児であるがゆえの悩みもある。母親から「家計が苦しいから帰ってきてほしい」と連絡を受ける塾生もいるからだ。片親の家庭にとって、子どもは大事な労働力。今村さんも、「(大学進学を)辞退しようかどうか迷っている」と塾生から相談を受けることもある。

「心塾から大学に進学して、将来は家庭に恩返しをしてほしいというのが本当の思い。しかし『今、本当に苦しい』という家庭の事情がある。だから一概に続けてほしいとは言えない。こうした相談を受けるときは現実を見る思いがする」(今村さん)

逆に今村さんが嬉しいのは、大学合格の知らせを聞いた瞬間。「みんな、緊張が解けて今までにない良い顔をする」と今村さんは笑う。

心塾から飛び立った11人がすでに大学を卒業した。4人が大学院への進学を検討中。4人が進学先の国で就職した。残りの3人もそれぞれの道を模索しているという。

あしながウガンダの母体はあしなが育英会だ。あしなが育英会は2014年からアフリカの未来のリーダー育成を目的とした「アフリカ遺児高等教育支援100年構想事業」を開始。あしなが心塾はこの事業の拠点となっている。