「道徳教育」でカンボジア社会を変える! 教育NGOを立ち上げた28歳の僧侶の挑戦

道徳の授業の様子。ソークンさんは学校の前の芝生に子どもたちを集め、マイクを使って授業をする(ソークンさん提供)道徳の授業の様子。ソークンさんは学校の前の芝生に子どもたちを集め、マイクを使って授業をする(ソークンさん提供)

カンボジア・シェムリアップの中心部からおよそ45キロメートル離れたプムオー村。そこで2014年に村の子どもたちに無料で英語やコンピューターを教えるNGO「カンボジアン・チルドレンズ・ディスティニー(CCD)」を立ち上げ、学校を建設した僧侶がいる。プムオー村出身のソークンさん(28)だ。ソークンさんは、CCDが運営する学校で道徳の授業を担当する。カンボジアの公立校では道徳の授業がなく、またプムオー村ではタイに出稼ぎに行く親が全世帯の半数を占め、学校と家庭の両方で、何が正しくて何が悪いのかを教わっていない場合が多いからだ。

ソークンさんの学校で学ぶのは10~18歳の250人。子ども全員が集まれるように、ソークンさんは、ほかの授業がない毎週日曜日に道徳を教える。テーマは、良い子ども・友だち・国民・仏教徒になるにはどうすればいいか。互いに尊重しあい、両親を敬い、地域に協力し、仏教の教えをよく学ぶ必要性を伝える。勉強する際の心構えについても「先生の話をよく聞いて、考えて、質問し、メモをとりなさい」とジェスチャーを交えながら話す。

ソークンさんが道徳を重視するには訳がある。公立校と家庭の両方で道徳教育が不十分だと考えるからだ。カンボジアの公立校では道徳の授業はない。それどころか給料が少ないことを理由に、放課後に自分の生徒を対象に塾を開き、“授業料”を得ている教師も少なからずいる。たくさんの生徒に塾に来てもらいたいから、学校よりも塾の授業に力を入れ、より高度な内容を教える教師さえいるという。「公立の学校ではそもそも先生はお金儲けばかりを考えている。そんな大人が子どもに道徳を教えられるはずがない」(ソークンさん)

家庭ではどうか。プムオー村では両親がともにタイへ出稼ぎに行ってしまうケースがざらだ。親から子への道徳教育は十分でない。離れ離れに暮らす親は生活費を送るだけで、子どもの教育にかかわることができないのが現実。家にいるのは高齢者と子どもだけ。プムオー村では一世帯5~7人の子どもがいるが、体力があまりない高齢者にとって、家のすべての子どもをしつけることは大変だ。加えて高齢者は、知識人を中心に虐殺したポル・ポト時代を経験しており、幼少期に学校に通っていない人も多い。そのため勉強の心構えなども理解していない。

ソークンさんは最近、カンボジア社会全体でモラルが低下していると嘆く。「最近の若者は自分の利益ばかりを考え、お互いに助け合うこと、他人に親切にすることを忘れてしまっている。以前のように食べ物などを近所で分けあうこともなくなってきた」

幼いころに道徳を身につければ、その子どもたちが大きくなったとき、またその子どもに道徳を教えることができる。「まずはプムオー村で、やがてはカンボジア社会を道徳教育で変えていきたい」とソークンさんは意気込む。