ベナン発のアパレルブランド「シェリーココ」がオリジナル柄商品! 売り上げはベナンの子どもの学費に

シェリーココのアトリエで主力商品の浴衣を制作するようす。専属の職人を5人雇う。写真中央が川口さんシェリーココのアトリエで主力商品の浴衣を制作するようす。専属の職人を5人雇う。写真中央が川口さん

西アフリカのベナンで仕入れたコットン100%の布「パーニュ」を使ったアパレルと雑貨のブランド「シェリーココ」から9月、新作が登場する。オリジナルのアフリカ柄をプリントしたマグカップ、Tシャツ、パーカー、アイフォンケースだ。売り上げの一部は、ベナンの子どもたちが小学校に通えるよう学費を支援する団体チルドレン・エデュク・ベニンに寄付する。

■一押しのデザインは「ブーケ」

シェリーココは代表の川口莉穂さん(29)がベナン人のボコサ・ベルアンジュさん(22)と立ち上げた。「ベナンの女性が働ける場をつくりたい」という思いのもとベナン人女性を雇って商品を制作し、オンラインストアやポップアップストアで日本人向けに販売。浴衣やラップスカート、ネクタイなどのアパレル商品と、ポーチやトートバッグなどの雑貨、計30種類(柄数を含めるとそれ以上)をそろえる。

シェリーココの新商品の特徴は、オリジナルの「アフリカ柄」がプリントされていることだ。シェリーココが扱うパーニュはろうけつ染めの技法で染色されるため、白い斑点が見られることが多い。この斑点や幾何学模様が多いといったパーニュの特徴に注目し、4パターンのオリジナル「アフリカ柄」を完成させた。

川口さん一押しのデザインは「ブーケ」。紫がかったピンクを基調に、バラの花束を描いたものだ。「自分の好きな花と好きな色でオリジナル柄をつくりたいとずっと思っていた。色の組み合わせ次第で何パターンもできるので作るのは難しかったが、形にできて嬉しい」(川口さん)

「アフリカ柄」の開発は日本人デザイナーの方とともに2019年末にスタート。オリジナル柄であればデザインの著作権の問題がなくなるため、商品に柄をプリントすることも可能になる。

■ベナンとのつながりをなくしたくない

しかし、オリジナル柄の開発を始めた川口さんの心は晴れなかった。

「オリジナル商品は開発から販売までの全工程を日本でする。オリジナル商品をきっかけにお客さんが増えて、これまでに制作してきたパーニュの商品がもっと売れるようになれば、ベナンの職人たちの仕事も増えるから、結果として良いことは理解している。でも、もっとベナンとのつながりを感じられるような仕組みをつくれないかと思った」(川口さん)

この悩みをベナンの経営者仲間でAfrica Network副社長の内藤獅友さん(34)に相談。そこで紹介してもらったのが、ベナンの起業家養成学校で英語教師をする倉科茉季さん(32)と教育NGOスタッフのクラリス・ソホヌーさん(26)が2019年8月に立ち上げたばかりの団体チルドレン・エデュク・ベニンだ。

「途上国にかかわり始めた原点にある、子どもたちの支援をしたいという気持ちと、倉科さんとソホヌーさんの話が重なった」と川口さん。倉科さんとも意気投合し、オリジナル柄商品の売り上げの5~10%程度を寄付することに決めた。

文房具ももたず学校に来る子どもたち

ベナンでは小学校に1年間通うのに7万セファ(CFA)フラン(約1万4000円)がかかる。入学金に1万5000CFAフラン(約3000円)、文房具、教科書、通学かばん、制服などに5万5000CFAフラン(約1万1千円)が最低でも必要だ。

チルドレン・エデュク・ベニンが支援するのはこのうち、入学金と教材費にあたる3万5000CFAフラン(約7000円)。入学金は学校に先払いし、その他は各家庭に現物で渡す。入学金以外は店との交渉次第で変わるため、安く調達できる店を探すのも重要な仕事だ。

支援先は、ベナンの最大都市コトヌーの隣の街アボメカラビから車とバイクを使って4時間ほどかかるコベ村の子どもたちだ。コベ村はソホヌーさんの故郷でもある。

コベ村の経済状況は深刻だ。小学校の教室はトタンの屋根を木の柱で支える簡素な造りで、壁がないので雨風をしのげない。子どもたちは破れた服を着ていて靴を履いてないこともざらだ。家庭には入学金はおろか、鉛筆を買うお金もない。

「何も持っていないけど、とりあえず学校に来ている子どもばかり。学校でも教材が不足しているので、まともに勉強できているかは分からない」と倉科さんは話す。

チルドレン・エデュク・ベニンでは現在、10月に入学する40~50人の子どもが小学校に入学できるように準備中だ。子どもたちはコベ村の3つの学校にそれぞれ入学する。子どもたちの入学金と、文房具、教科書、かばんなどを購入するお金は、2019年11月にクラウドファンディングで募った。

「本当は学費を肩代わりするのではなく、親が学費を払えるようにするための取り組みをしたい。でもコベ村には他に支援する人がいないからやむをえない。支援の仕方はソホヌーさんともよく話し合うけど、解決の糸口が見えずいつも議論は堂々巡りだ」と倉科さんは複雑な心境を吐露する。

■70万円を募る! 10%は子どもの学費に

7月18日~8月16日の1カ月間、川口さんはクラウドファンディングを実施する。目標金額は70万円。新商品の制作に使う。集まった金額のうち10%にあたる7万円をチルドレン・エデュク・ベニンに寄付する。寄付金は2020年10月入学の子ども10人分の学費に充てる予定だ。

クラウドファンディングの一番の目的は、新商品が売れる仕組みをつくること。「クラウドファンディングでお客さまに新商品を知ってもらうのはもちろん、どの商品や柄が人気かリサーチするつもりだ。商品が売れれば売り上げのうちの寄付の割合を大きくすることができる。売れる仕組みづくりがすごく大事」と川口さんは意欲を見せる。

新型コロナウイルスの影響で、2020年3月にべナンからの輸送便はストップ。職人たちが3カ月かけて制作した帯やかごバッグ、キッチン小物など、計300個の商品も届かないままだ。

予定されていたポップアップストアでの販売も延期になった。実店舗をもたないシェリーココにとって、ポップアップストアは新規客を取り込む重要な場。特に主力商品の浴衣は派手な柄も多く、ポップアップストアで試着してから購入する人が大半だ。

困難続きのシェリーココ。それでも川口さんは前を向く。

「倉科さんとソホヌーさんに出会って、親が働ける場をつくるだけでなく子どもたちの教育支援にもかかわれることになった。これを皮切りに、ものづくりの枠を超えてベナンでできることを増やしていきたい。これからのことを考えると楽しみ」(川口さん)

新商品のブーケ柄アイフォンケース。川口さんも愛用中だ

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ポップアップストアは新宿や横浜からスタート。2020年3月には初めて博多で開催した

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コベ村に小学校視察をしたときのようす。初めて見る外国人に訝しげな顔つきだった子どもたちも、去り際には笑顔を見せた。写真手前が倉科さん、奥がソホヌーさん

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コベ村の小学校の子どもたち。右奥に写るのが泥と木、トタンで造った校舎

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