「勝つか死ぬかだ!」 元ミュージシャンが35年続くウガンダ独裁政権に立ち向かう

ボビ・ワインの選挙演説。会場には毎回多くの人がつめかける 2020 Bobi Wine Facebookボビ・ワインの選挙演説。会場には毎回多くの人がつめかける。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

「ウガンダのネルソン・マンデラ」と呼ばれる男がいる。ボビ・ワイン(本名:ロバート・チャグラニ・センタム)だ。ボビ・ワインは元ミュージシャンで国会議員。2021年1月14日にウガンダで実施される大統領選挙に出馬する。主張するのは、30年以上続くムセベニ大統領の独裁からの自由だ。

ゲットー大統領

「People Power!(Our Power!)Our Power!(People Power!)」

アフリカの革命家トーマス・サンカラ(アフリカのチェ・ゲバラとよばれるブルキナファソの元大統領。故人)を思わせる赤いベレー帽をかぶり、観衆に向かって声を上げる男。彼こそがウガンダの最大野党「国家団結プラットフォーム党(NUP)」の党首で、1月14日のウガンダ大統領選に立候補したボビ・ワイン(38)だ。

ボビ・ワインは、ウガンダの首都カンパラにあるカモーチャというゲットー(スラム)の出身。1990年代後半から音楽活動を始め、2000年代初めには東アフリカでも有数のレゲエとアフロビートのミュージシャンになった。

スラムの貧困層からセレブへと駆け上がったボビ・ワイン。そんな彼にある夜、転機が訪れた。愛車のキャデラックでクラブに乗りつけたとき、ある男が絡んできた。男は国の権力者とつながりがあると言いながら、ボビ・ワインを殴り、銃を突きつけた。「おい、ゲットー、ちょっと成功したからって調子にのるなよ」

このとき、ボビ・ワインは実感した。いくら成功して有名になっても、自分は誰かの奴隷であるということを。実力で得たと思っていた自由はただの幻想だった。

ボビ・ワインはこれ以降、エイズや貧困といった社会問題をテーマにした曲を作り始める。代表作「Ghetto」では、スラムの取り壊しを批判し、「Dembe」では平和な選挙の実施を訴えた。2020年には新型コロナウイルスの感染予防を啓発する「Corona Virus Alert」もリリースした。

慈善活動にも積極的に参加する。2014年には、国際NGOセーブ・ザ・チルドレンの親善大使になった。ボビ・ワインはいつしかウガンダ人の間で「ゲットー大統領」と呼ばれるようになった。

ウガンダでは1986年以降、ムセベニ大統領の政権が続く。一部の政治家と金持ちだけが決定権をもち、スラムの人々や貧しい農民は社会保障もなく、苦しい生活を強いられている。ボビ・ワインは庶民の声を議会に届けるため2017年、カンパラの北部にあるチャドンド東地区から国会議員に立候補。ムセベニ大統領率いる与党「国家抵抗運動党(NRM)」の候補の5倍以上の票を得て当選した。

だが国会議員になっても権力の暴走を止められなかった。国会は2017年、大統領選挙に出馬するための条件である75歳以下という年齢制限を撤廃。これによりムセベニ大統領は2021年の大統領選にも出馬できるようになった。2018年にはSNSの利用者に対して1日200ウガンダシリング(約6円)を課税するSNS税が成立した。

権力者の横暴を止めるには大統領になるしかない。こう決意したボビ・ワインは2019年9月、大統領選への出馬を表明した。

補欠選挙で連戦連勝

ボビ・ワインが訴える独裁政治からの自由とは、人々をエンパワーメントすることだ。ボビ・ワインはケニアの独立メディア「アフリカ・アンセンサード」でこう話す。

「真の自由を得るために必要なのはひとりの救世主ではない。国民ひとりひとりが自由の解放者になることだ。そうすればみんなでリーダーを選べるし、また変えることもできる。これが大統領を支配者にしない唯一の方法だ!」

こう語るボビ・ワインが2018年に始めたのがピープルパワー運動だ。ピープルパワー運動とは、政府の人権侵害や汚職を撤廃し、法の秩序を取り戻そうとする市民社会運動。積極的にデモ活動をし、社会変革を訴える。

特徴的なのは、運動に参加する人の支持政党を問わないことだ。独裁政治を止め民主主義を取り戻す。これに賛同する人は誰でも運動に参加できる。

このピープルパワー運動に多くのウガンダ人が共感した。特に支持を集めたのが人口の8割を占めるとされる35歳以下の若者だ。ほとんどの若者はムセベニ政権しか知らない。いくら声をあげても遮断され、弾圧される。この政治体制に若者は疲れ、諦めていた。

そんな若者に向けてボビ・ワインは「立ち上がれ、一緒に前に進もう。確かに嫌なことばかりだが、諦めずにともに歩もう」(ヒット曲「Sutika」より)と訴えかける。この言葉は、若者たちの心に火をつけた。多くの若者がデモや選挙運動に参加。ボビ・ワインの演説には毎回数千人が詰めかけた。

日本在住のウガンダ人でNUP日本支部の渉外担当を務めるエリザベス・ナンテザさんは「ボビ・ワインは私たちの言葉で語ってくれる本物のリーダーだ」と、ボビ・ワインへの信頼を語る。

野党の政治家もボビ・ワインを支持し、協力するようになった。2018年にウガンダの3つの地区で実施された国会議員の補欠選挙では、野党候補や無所属候補がボビ・ワインと協力して選挙運動を展開。3カ所すべてでNRMの候補を打ち破り、当選した。ボビ・ワインはいつしか、ムセベニ政権打倒の筆頭となっていた。

家に手榴弾が投げ込まれる

独裁政治の打破を掲げ、ピープルパワー運動を先導するボビ・ワインだが、これまで数々の妨害や弾圧を受けてきた。2017年には何者かがボビ・ワインの自宅に手榴弾を投げ込んだ。家族にけがはなかったものの、当時、ボビ・ワインと妻のバーバラ、4人の子どもが寝ていた。

ウガンダ北部のアルアで野党候補を応援していたとき(2018年)、ボビ・ワインは警察に拘束された。警察署では、棒や銃で殴られ、睾丸を握りつぶされるなどの拷問を受けた。得体の知れない注射を何本も打たれたという。解放されたとき、ボビ・ワインの顔はひどく腫れあがり、ひとりで歩くことはできなかった。

恐れない

1月14日の大統領選に向けての活動も苦難の連続だ。2020年11月に選挙運動を始めて以降、ボビ・ワインはすでに3回も逮捕された。集会を開こうにも警察や軍が幹線道路をブロックしたり、集会場に催涙ガスを打ち込んで演説の邪魔をしたりする。

11月18日には、ボビ・ワインの逮捕に抗議して支持者がデモを敢行した。これに対して政府は警察や軍を動員、制圧した。AP通信によると、これにより37人以上が死亡、350人以上が逮捕されたという。武装した私服の男たちがデモ隊に向かって実弾を発砲したとの報告もある。

ボビ・ワインの関係者にも被害が及んでいる。12月1日には友人の音楽プロデューサーが警察のゴム弾を受けて負傷した。12月28日にはガードマンがトラックにひかれて死亡。2人の支援者も警官に撃たれて病院に運ばれた。

だがボビ・ワインは弾圧に屈するつもりはない。2017年に自宅に手榴弾が投げ込まれた後、ボビ・ワインは国内ニュースメディアNBSにこう答えている。「今まで人々と約束してきたことや自分の信念と向きあったとき、この闘いをやめることはできない。これは勝つか死ぬかだ」

ボビ・ワインはまた、ドイツのメディアDWが2019年に作成したドキュメンターリーの中で、ウガンダの人々にこう訴えかけている。

「恐れてはいけない。恐怖が私たちと理想の国を隔ててしまうから。闘い続けよう。報われる日は必ず来る」

演説をするボビ・ワイン。12/1の警察の発砲以来、ヘルメットと防弾チョッキを着用する。2020年に撮影(Bobi Wine Facebookより)

演説をするボビ・ワイン。友人の音楽プロデューサーが2020年12月1日に警官が発砲したゴム弾を受けて以来、ヘルメットと防弾チョッキを着用するようになった。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

ミュージシャン時代のボビ・ワイン。2016年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

ミュージシャン時代のボビ・ワイン。2016年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

2017年のチャドンド東地区の補欠選挙、多くの人がボビ・ワインを支持した(2017 Bobi Wine Facebookより)

2017年のチャドンド東地区の補欠選挙、多くの人がボビ・ワインを支持した。2017 年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

熱狂する多くの若者(2020 Bobi Wine Facebookより)

熱狂する多くの若者。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

幹線道路を封鎖する警察官。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

幹線道路を封鎖する警察官。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

ゴム弾により負傷した友人の肩を抱えるボビ・ワイン(2020 Bobi Wine Facebookより)

ゴム弾により負傷した友人の肩を抱えるボビ・ワイン。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

ボビ・ワインと妻のバーバラ(2020 Bobi Wine Facebookより)

ボビ・ワインと妻のバーバラ。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

ボビ・ワイン支持者の大行進。2020年に撮影(ボビ・ワインのフェイスブックより)

ボビ・ワイン支持者の大行進(2020 Bobi Wine Facebookより)