政府の土地なら何をしてもいいのか、道路を作るためにキベラスラムの家が次々壊される

ショベルカーにより家が粉々にされ、立ち尽くす人々ショベルカーにより家が粉々にされ、立ち尽くす人々(ナイロビ・キベラスラム)

ケニア・ナイロビの都市開発を進める政府機関ナイロビ・メトロポリタン・サービス(NMS)は2月22日、ナイロビの中心地と南部のカタンガをつなぐ道路を建設するため、キベラスラムの一部を取り壊し始めた。「家が壊されるのに補償は一切ない。あしたからどうしたらいいかわからない」と住民から悲痛な声があがる。

学校や教会まで‥‥

「ガッシャーン」。轟音を響かせながらクレーン車がバラックをなぎ倒す。立ちのぼる砂ぼこり。政府が雇った若者たちが、トタンや木材を回収していく。ブルドーザーが一直線に地面を平らにしていく。

家だけでなく、小学校やキリスト教の教会も取り壊しの対象となる。建設予定の道路の上に立つものは跡形もなく破壊されていく。「建物が石でできていようが、泥だろうが、鉄筋だろうが関係ない。すべて解体する」とNMSのモハメド・バディ長官が発表したとおりだ。

数千人のスラム住民は解体現場に集まり、固唾をのんで見つめていた。慣れ親しんだ家が粉々になるのを見て、泣き崩れる人もいたという。

アブドゥールさん(58)は、6世代にわたってサラゴンベ地区西ソウェトで暮らしてきた。7つのバラックを所有し、それを貸して生計を立てていた。だが今回の取り壊しですべてを失い、ホームレスとなってしまった。

「家と仕事を失った。あした食べるものもない。これからどうすればいいのか」と呆然とする。

取り壊しで家賃高騰

「家族と離れ離れになった」

こう嘆くのは、キベラスラムのライニサバ地区マシモニに住むウィクリフさん(34)だ。ウィクリフさんは2月13日、自分の家が取り壊しの対象であることを通知された。予定日のたった10日前だった。

家具などは急いで知り合いの家に移動させた。だが家は解体されてしまった。ウィクリフさんは現在、友人の家に泊めてもらい、妻と2人の子どもは、同じキベラスラムに住む祖母の家に身を寄せる。

ウィクリフさんは「取り壊しの影響でキベラの家賃が2倍近くに跳ね上がった。次の家を見つけるのは難しい。家族みんなで一緒に暮らせない」と涙を浮かべる。

取り壊しの日が通知されず、家財すべてを失った人もいる。サラゴンベ地区カトウェケラに住むベナードさん(36)だ。

警察は取り壊し予定の家には赤字で「×」をつけていく。ベナードさんの家の壁にも×印がついた。ところがいつ取り壊されるかは知らされなかったという。

2月26日、ベナードさんが外にいる時、家の解体が始まった。友人の知らせを聞いて慌てて家に戻ったが、ベッドやソファー、トタンなどの家の資材はすでに粉々。回収できたのは、家の残骸の下に埋まっていた数枚の服だけだった。

取り壊しの日がわかっていれば、家財を違う場所に移すことができた。家も自分たちで解体し、家の資材を売ったり、新しい家を建てる時に使ったりすることもできた。しかし期日の通知がなかったため、ベナードさんは文字通り資産をすべて失ったのだ。

「この地区から選ばれた国会議員やナイロビ州の議員は誰も助けてくれない。警察は家に×を付けて行くだけ。取り壊しの日すら教えてくれない。もう誰も信じられない」とベナードさんは落胆する。

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