デリーの公立校の教師、コロナ対策と授業の「ダブルワーク」を必死でやりくり

メンター教師を中心に、校長、教員能力開発コーディネーター、教師が参加し、生徒の学びをどう助けるかを話しあっているようす。こうした取り組みは、デリーではコロナ禍以前の2017年からデリーで実施されている。学習向上サイクル(Learning Improvement Cycle=LIC)と呼ぶメンター教師を中心に、校長、教員能力開発コーディネーター、教師が参加し、生徒の学びをどう助けるかを話しあっているようす。こうした取り組みは、デリーではコロナ禍以前の2017年からデリーで実施されている。学習向上サイクル(Learning Improvement Cycle=LIC)と呼ぶ(写真提供:Mentor Teacher Sanjay Prakash from DIET Dilshad Garden, North East District, Delhi)

インド・デリーの公立学校の教師の多くが、インド政府が進めるコロナ対策に駆り出されている。国際教育NGO「STiR Education」(本部:ロンドン)のプログラムマネージャーのスナワリ・ダスさんが、国際教育計画研究所(IIEP-UNESCO)が開いたオンライン討論会のなかで明らかにした。デリーの教師らは、学校の授業とのダブルワークをなんとかこなしているようだ。

炊き出しから体温測定まで

教師が新たに担う業務は、新型コロナウイルスの影響で生活できなくなった困窮者へ食料を配ったり、入国者の健康状態を空港で確認したり、また家庭訪問で住民の体温を測ったり、と多岐にわたる。CNNの1月18日付記事によると、デリーでは2万8000人の教師がこうした業務に携わっているという。

食料の配給では、3月21日に始まったロックダウンから3〜4カ月間、デリーの68の公立学校が「飢餓救済センター」となって、昼と夜に炊き出しをした。ロックダウンで多くの出稼ぎ労働者や日雇い労働者が仕事や住む場所を失ったからだ。

家庭訪問では、体温を測るだけでなく、健康状態も確認する。非接触型の体温計を使うが、住民との距離も近くならざるをえない。感染のおそれもある。「コロナで亡くなった教師もいる」とダスさんは言う。

コロナ対策の仕事をする教師は、生徒へ教える業務は免除される。だが実際は、生徒のことを案じて、そう割り切ることはできないようだ。ダスさんは「多くの教師はどんなに疲れていても、生徒が学べるように課題を出し、生徒からの質問に答えて続けている」と話す。

授業を音声で届ける!

ロックダウンに伴い、学校が休校になったとき、教師がまず取り組んだのは、生徒の携帯電話の番号を把握することだった。学校が閉まる間、生徒へ課題を出すのに、無料通話アプリ「WhatsApp」(ワッツアップ。日本のラインに相当)を主に使うためだ。ワッツアップのアカウントは電話番号で登録する。

教師らがワッツアップで生徒に送ったのは宿題だ。授業のようすを自宅で録音し、送信する教師もいた。ダスさんは「政府は、生徒への学習支援の方法を教師に一任した。ビデオだと、インターネットのデータ通信量を多く使ってしまう。通信量を多く買えるお金を生徒はもっていない(だからビデオではなく、音声のみにした)」と説明する。

生徒の携帯番号をとりまとめるのは予想以上に大変だった。連絡先すらわからない生徒もいたからだ。STiR Educationが3~4月に実施した調査によれば、デリーの公立学校で教鞭をとる教師の半数以上(回答数7021人)は「(担当する)生徒の3~5割としか連絡がつかなかった」と答えた。

ダスさんは「ロックダウンで、地方から上京した日雇い労働者の多くが仕事と家を失った。(親子で)デリーから去ってしまったのだろう」と説明する。

難しかったのは、毎回違う携帯電話から教師へ連絡する生徒が少なくなかったこと。本人が携帯電話をもっていないためだ。「ある時は、一緒に暮らすおばの携帯から、またある時は近所の人の携帯を借りるなど、そのときに使える携帯から電話をかけてくる」(ダスさん)

生徒探しは、コミュニティにも協力してもらった。保護者と住民で作った学校運営委員会に、連絡がつかない生徒の連絡先を尋ねた。こうした地道な努力で、「5~7割の生徒と連絡がとれるようになった」とダスさんは話す。

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