「誰も取り残されない社会」達成に重要なのは、地域別の課題整理とコミュニケーション~SDGs書籍の著者に聞く第2回~

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「SDGs書籍の著者に聞く」と題したリレー形式のオンラインイベント(主催:朝日新聞社/共催:SDGsジャパン)が2月18日に開催された。第2回のテーマは、「社会・地域課題とその解決」。国際連合事務総長特別顧問で人間の安全保障を担当している高須幸雄氏と、東京都市大学環境学部教授の佐藤真久氏が登壇した。両者は、SDGsが従来のMDGs(ミレニアム開発目標)とは異なる社会背景と課題認識を持っている点を強調。「誰も取り残されない社会」を築くため、SDGsに関する各都道府県別のデータを集めることや人と人のコミュニケーションの重要性などについて意見が交わされた。

SDGsの指標は各都道府県・市区町村ごとに示すべき!

「SDGsと日本―誰も取り残されないための人間の安全保障指標」(明石書店、2019年11月、3300円)の編著者である高須氏は、SDGsの理念である「誰も取り残されない社会」を達成するためには、人間の安全保障を全ての個人に確保するべきであると強調した。人間の安全保障指標とは、高須氏が理事長を務めるNPO法人「人間の安全保障」フォーラムが中心となり2018年に作成された、命指標、生活指標、尊厳指標の3分類からなる。その意義について、高須氏は「日本の平均的なSDGsの達成状況の数値を出しても意味がない。全国データをもとに、まずは都道府県レベル、さらには市区町村レベルでの課題を指標として比べるべきだ」と語る。

アンケートで集めた主観的なデータと客観的なデータを組み合わせたところ、三つの結論が出たという。一つ目は、日本では多くの人が貧困と格差、孤立、差別によって「取り残されている」という事実を認識するべきだということ。二つ目は、SDGsの17の目標の達成だけに取り組むのではなく、アンケートによって課題が浮き彫りにされた子どもや女性などに焦点を当てた政策が必要であるということ。三つ目は、貧困格差や差別は個人の努力では解決できない構造的な問題であり、人の尊厳に関わる「権利」の問題として捉えるべきだということだ。

調査により見えてきた課題を解決するため、高須氏らは三つの方法を提言した。一つ目は、各都道府県において達成できているSDGsの割合を明確にすることだ。「子どもの貧困率や障害を持つ人を年齢別、性別で分けた統計を出している都道府県は非常に限られている。数値を明確にしないと進展もモニターできない」と高須氏は説明する。

二つ目の方法は、現状の課題を数値化するだけでなく、数値目標を設定するということだ。SDGs達成への進ちょく状況をモニターするために用いる。

三つ目は、「取り残されている」当事者の意見を尊重し、政策に反映することだ。「子ども、女性、高齢者、外国人などのうちの代表者の意見だけでなく、より多くの人の意見をくみ上げることが重要である」(高須氏)

命指標・生活指標・尊厳指標の3分類

命指標・生活指標・尊厳指標の3分類

人間の「尊厳」を数値化する

さらに、高須氏は客観的なデータだけでは見えない個人の主観的な要素を指標に取り入れるべきだと主張する。「人間の安全保障」フォーラムが全国で自己充足度と社会的な連携性を測るアンケートを取ったところ、自分の人生に満足していない人が驚くほど多かったという。特に、日本では子どもの自己肯定感が諸外国に比べて非常に低い。

この点について、視聴者から「子どもたちがSDGs達成に向けて学ぶべきことは何か」といった質問が寄せられた。高須氏は、SDGsに対する理解の中でも特にいじめをなくすことが重要である、と強調したうえで、日本の子どもの7割がいじめの加害者で、8割が被害を経験しているというデータを指摘。「いじめが頻繁に起こることが原因で自己肯定感が低くなる。いじめを少なくする、思いやりを持つということがまずやるべきSDGsへの取り組み方。勉強よりもまずそれをすることで社会は変わる」と述べた。

外部と他者をつくらない!

続いて登壇した佐藤氏は、「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ」(みくに出版、2020年12月、2750円)を出版。現代は、世界で起きている問題間の相互作用、構造の共通化が進む社会であることを指摘。社会の個々の問題を別々に解決しようとするのではなく、問題が起きにくい、または起きても対応できる社会の構造を整える必要があると強調した。

また佐藤氏は、これからの10年は混乱と分断の時代になるとし、人と人とのコミュニケーションの重要性を指摘。正しさの衝突を迎える今日において、一つひとつの言葉を大切にしながらコミュニケーションをとるべきだ、と述べた。

自治体の中でどのようにSDGsを取り入れていけば良いかという視聴者からの質問に対しては「地域でできるSDGsの取り組みの担い手は自治体だけではない。自治体に全てを任せず、一人ひとりが日々の生活の中でSDGsについて考えるべき。そのうえで問題を解決していくためにコミュニケーションを使うことが大事だ」と回答。これからの時代に大切なことは「外部と他者をつくらない」ことだとして、社会的排除やいじめなど現代の諸問題には共通点があることを認識すべきだと話した。

ESD:持続可能な開発のための教育

ESD:持続可能な開発のための教育

社会とともに人も変容する

佐藤氏はまた、持続可能な社会の担い手づくりが重要であるとし、「持続可能な開発のための教育(ESD: Education for Sustainable Development)」という概念を紹介した。ESDとは、地球上に存在する課題に対し、一人ひとりが自分にできることを考え実践していくことを目指す学習・活動を指す。

ESDの背景には、人の変容と社会の変容を連動させるべきだという考え方がある。佐藤氏は「人間は社会の問題を解決して社会を変容させようと思いがちだが、我々人間も変容する」と説明。個人と組織という枠組みを超えて、社会の中でどのように能力を発揮すれば良いかという点を考えるべきだと話した。(朝日新聞「2030 SDGsで変える」から転載)