【サコ学長に聞くマリのクーデター①】民意なきクーデターにマリ人は冷ややか、願いは公平な選挙だけ

京都精華大学のウスビ・サコ学長(提供:京都精華大学)京都精華大学のウスビ・サコ学長(提供:京都精華大学)

「マリ人はみんな、あきれている。誰が暫定大統領になるかなんてどうでもいい」。西アフリカのマリで5月24日に起きたクーデターについてこう話すのは、マリ人で、京都精華大学の学長を務めるウスビ・サコ氏だ。マリでは9カ月間で、2020年8月と2021年5月の2回のクーデターが起きた。混迷を極めるマリ情勢をサコ学長に聞いた。3回シリーズの第1弾。

――2020年8月に起きた1回目のクーデターでは、マリ国軍がイブラヒム・ケイタ前大統領を拘束し、辞任に追い込んだ。このクーデターに対するマリ人の反応はどうだったか。

「クーデターが起きた当時は歓迎されていた。ケイタ大統領には辞めてほしいというのが、大多数のマリ人の思いだった。どの層も反政権のデモに参加して大統領を辞めさせる一歩手前まで行った。そんな時に軍が出てきた。軍のクーデターに対して何も疑問はなかったし、国民の中では自分たちで勝ち取ったという満足感がある」

――マリ国軍は2021年の5月24日、またしてもクーデターを敢行。バ・ヌダウ暫定大統領とモクター・ウアンヌ暫定首相を拘束し、政権を掌握した。その後、クーデターを主導したアシミ・ゴイタ大佐が暫定大統領に新たに就任した。2回目のクーデターは暫定政権に対するもので、「クーデターの中でのクーデター」ともいわれる。この2回目のクーデターに対するマリ人の反応はどうか。

「もうあきれている。興味がない。マリ人はもともとエキサイティングな性格。クーデターなどが起きると抗議デモなどをする。しかし今回は(クーデターに対する)反対運動は起きていない。みんなかなり冷静に見ている」

――一連のクーデターをサコ学長はどうみるか。

「1回目のクーデターは、政権に対する市民の反対運動があった中で、軍の言葉を借りると『軍が手助けした』ものだった。そこはなんとなく理解できる。しかし今回のクーデターは、背景や理由が不明なところが多い。少し驚いている」

――今回のクーデターは、直前に発足した内閣に2人の軍人が選ばれなかったからだという報道が多い。サコ学長はなぜ、軍が2度目のクーデターを起こしたと考えるか。

「どこに問題があったのかは分かりにくいが、どちらかというと(内閣の)いすをめぐる争いかなと思う。もし軍人2人が内閣から外されたことがクーデターの原因だとしたら、それは幼稚で理由にはならない」

――マリ人は冷静に見ているとのことだが、それはなぜか。

「今回はクーデターの中でのクーデターだからだ。(自分たちが選挙で選んでいない暫定政権だから)どうでもいい話。1回目のクーデターがあった時点で民主的なプロセスから外れている。誰が暫定大統領になるかなど、そんな演劇みたいなことは誰も関心がない」

――国民は何に関心があるのか。

「今後、公正な選挙ができるかどうかだ」

――軍主導の暫定政権はアフリカ連合(AU)や西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)との約束通り、2022年の2月までに選挙を実施すると発表した。軍は今後、公平な選挙を実施できると思うか。

「残り9カ月しかない。バ・ヌダウ前暫定政権は選挙の準備を進められていなかった。国勢調査もしていなければ、選挙権のある住民リストも作っていない。国の半分がイスラム過激派にコントロールされている中で、来年(2022年)2月までに公正な大統領選挙ができるか(は怪しい)。

軍人自体も真面目でしっかりしているわけではない。1回目のクーデターの後、(国の)お金を大量に使っている。クラブを貸し切って毎晩パーティーを開いたり、車を何台も変えたり。そもそも政治という仕事を知らないし、できない。選挙をするかどうかも少し疑わしいところがある」(つづく

マリの首都バマコの街並み(提供:ウスビ・サコ学長)

マリの首都バマコの街並み(提供:ウスビ・サコ学長)

【ウスビ・サコ氏】
1966年、マリの首都バマコ生まれ。高校卒業後、中国の南京で建築学を学び、1991年に来日。2001年、精華大学の講師として働き始め、2018年より同大学の学長を務める。日本の大学で初めてのアフリカ出身の学長。著書に「アフリカ出身 サコ学長、日本を語る」(朝日新聞出版)がある。

【マリとは】
マリは西アフリカの内陸国。1960年にフランスから独立した。サハラ砂漠におおわれた中部や北部では金などの地下資源が豊富にとれる。この地域では遊牧民であるトゥアレグ人との紛争が絶えず、近年はイスラム過激派との戦いが続く。マリでは独立以降、2021年のクーデターも含めて5回のクーデターが起きた。民主政権だった期間は1992~2012年の20年しかない。