【サコ学長に聞くマリのクーデター②】クーデターでフランス不要論が再燃!「プーチン来てくれ!」

京都精華大学のウスビ・サコ学長(提供:京都精華大学)京都精華大学のウスビ・サコ学長(提供:京都精華大学)

9カ月の間に2回もクーデターが起きた西アフリカのマリで、フランス軍を追い出そうとの声が高まっている。2013年にフランスが軍事介入して以降、イスラム過激派との紛争が収まらないからだ。京都精華大学のウスビ・サコ学長(マリ人)は「フランス軍がマリに居すわるのは資源の確保のためではないか、と懐疑的に見るマリ人も多い」と語る。サコ学長へのインタビュー第2弾。第1弾はこちら

――イスラム過激派は2012年、マリの北部と中部を占領した。マリ全土がイスラム過激派の手に落ちることを恐れたフランスは2013年、マリに軍事介入し、過激派から主要都市を奪い返した。だがテロとの戦いは今も続く。そんな中、2021年5月のクーデターの後に首都バマコの独立広場で、フランス軍の撤退を要求する抗議デモが起きた。マリ人はフランスに対してどんな感情を抱いているのか。

「2013年のフランス軍の介入のときはフランス様様。マリ人はみんなフランスに感謝していた。しかし今はフランスを歓迎していない。昨年(2020年)のクーデターのときも、今回も、フランスに対して出て行けという抗議デモをしている。『フランスはいらん。フランスはマリを侵略しに来ただけだ』と考えるマリ人は多い。反対に、ロシアに来てほしいと言っている。『プーチンしか我々を助ける人はいない』と」

――マリ人はなぜフランスを歓迎しなくなったのか。

「紛争が長引いているからだ。マリ北部では集団で誰かが殺されたという話は多いが、被害者のほとんどはマリ人の兵士。フランス人はあわせて50人ほど。あれだけ情報システムがしっかりしているフランスがもっと事前に察知できなかったのか。マリ人はフランスに対して非常に悪い印象をもっている。

トゥアレグ人を優遇するのもおかしい。フランスはマリ北中部一帯に住むトゥアレグ人にフォーカス(肩入れ)して、トゥアレグ人を守りたいという。トゥアレグ人はマリ北部紛争で、マリの兵士を一番殺しているのに」

――トゥアレグ人の武装組織(MNLA)は2012年、イスラム過激派とともに武装蜂起し、北部を占領した。その後、イスラム過激派に追い出されてしまったが、MNLAこそマリ北部紛争を始めた当事者。フランスはなぜ、そのトゥアレグ人に肩入れするのか。

「フランスだけではイスラム過激派と戦えないからだ。だから(地域のことをよく知る)トゥアレグ人を必要としている。トゥアレグ人はイスラム教徒だが、過激派ではない」

――フランスはトゥアレグ人をどう優遇しているのか。

「フランスは、トゥアレグ人が比較的多く住む町に軍の基地を作る。フランス軍がそこで大金を使う。その町ではトゥアレグ人の現金収入がとても多い。

そのひとつがキダル(マリ北東部の町)。キダルは今とても栄えている。首都バマコよりもキダルのほうが良い生活ができる。砂糖や油も安い。バマコの売春婦はみんなキダルに引っ越したと聞く。エンジニアの私のいとこもキダルに拠点を移してから全然帰ってこない。そういう世界。

キダルには地方政府もなければ知事もいない。すごい閉鎖的なところだ。マリ軍はキダルには入れない。でもこれはおかしい。だってキダルはマリでしょう!」

――フランスはなぜ、キダルをマリ政府から遠ざけようとするのか。

「よくわからない。だがキダルの資源が目的ではないか、と多くのマリ人は思っている。キダルでは金が豊富に採れる。アルジェリアにも近いから、(アルジェリアと同じように)掘れば天然ガスや石油も採れるかもしれない。だから基地を作って長期的に居座る。おかしい、怪しすぎる。『キダルからヨーロッパにダイレクトに飛ぶフライトがあるのではないか』『密輸しているのではないか』と疑うマリ人も多い」

――フランスに感謝していたマリ人がなぜ、8年経って、ここまでフランスを疑うようになったのか。

「マリ人からすると、フランスは民主主義のためではなく、自分たちの利益のために動いているように見える。

たとえばチャド政府への対応。チャド軍はマリ北部紛争で一番活躍している。チャドでは今年4月に元軍人のイドリス・デビ大統領が殺され、その後、息子で陸軍大将のマハメト・デビ氏が暫定大統領に就いた。フランスのマクロン大統領は『息子が大統領になってもいいよ』とマハメト氏を承認する。息子だよ!? 反対にマリのクーデターを批判し、制裁をする。そんなフランスを見ていると、マリ人は『マクロンは真面目か?』と思う。だからプーチンに来てくれとなる。

(民主主義ではなく、自国の利益を優先する)フランスは世界に弱さを露呈している。(チャドの軍事協力やマリの資源など)アフリカの助けがないとフランスは国力を維持できないと。『フランスがやってくれたことは実は見返りのためにやっているのではないか』『フランスは私たちを利用するだけなのではないか』と多くの国民が思うようになった」(つづく

マリの村の風景(提供:ウスビ・サコ学長)

マリの村の風景(提供:ウスビ・サコ学長)

【ウスビ・サコ氏】
1966年、マリの首都バマコ生まれ。高校卒業後、中国の南京で建築学を学び、1991年に来日。2001年、精華大学の講師として働き始め、2018年より同大学の学長を務める。日本の大学で初めてのアフリカ出身の学長。著書に「アフリカ出身 サコ学長、日本を語る」(朝日新聞出版)がある。

【フランスの二枚舌】
マリへの軍事介入はイスラム過激派からマリを守るためだ、とフランス政府は主張する。だが2013年の軍事介入の後の2015年、フランス政府は、マリ政府とトゥアレグの武装組織の間の和平合意を先導した。その合意は、トゥアレグ武装組織に北部の町の自治権を認めるものであり、キダルもそのひとつ。この合意はマリ国内の自治を政府とトゥアレグ武装組織の2つに分けるものであるとして、マリ国内外から批判が上がっている。