約40万人の農民・漁民に被害を与えた大型台風オデット(国際名:ライ)が2021年12月に上陸し、壊滅的な被害を受けたフィリピン中部ボホール州マハネイ島のアルマー村で、海藻の養殖が復活しつつある。アルマー村海藻養殖組合(ASFA)のロランド・サラバオ代表(46)は「オデットでは海藻の苗も養殖設備も流されたが、養殖を再開できる農家が増えてきた」と話す。フィリピンでは、海藻の主要産地の多くがオデットの被害を受けたため、海藻の卸売価格は台風前の2倍に高騰しているという。
ゼロからの出発、日本のNGOも支援
アルマー村は、ボホール島から船で約40分のところに浮かぶ小さなマハネイ島にある。村人の生活を支えるのは水産業。海藻の養殖に従事するのは全世帯の9割に当たる251世帯だ。
ところがオデットの襲来で、海藻の養殖を営むほぼ全世帯が一時的に操業を停止せざる得ない状況に追い込まれた。被害当時の状況についてサラバオさんは「育てていた海藻とその苗、養殖に使う杭やロープなどがすべて、オデットで流されてしまった」と話す。
復活の兆しが見えたのは7月に入ってから。アルマー村でかねて活動していた日本の国際協力NGOイカオ・アコ(本部:名古屋市)が、養殖再開のための費用として約13万ペソ(約31万8000円)を支援したためだ。これは、苗に換算すると約4万本分にあたる。
このほか、国際協力NGOハロハロ(本部・東京都港区)は台風で壊れた家の修理資材や食べ物を、フィリピン農業省は養殖に使うロープや苗を提供したという。
こうした支援についてサラバオさんは「苗ができるだけ公平に行き渡るよう、一世帯あたり3〜4本のロープで養殖を再開した。海藻は育成サイクルが早いから、翌月には苗を生産して、各世帯あたりロープ20本分まで拡大できた」と喜ぶ。
サラバオさんによると、1本のロープから採れる苗はロープ3〜5本分だ。村で養殖が再開されてから3カ月経った10月時点では、村の160世帯に苗が行き渡り、6割以上の養殖農家が再開できたという。
台風が襲来する前のアルマー村では、1世帯あたり50〜60本のロープを使って養殖を営む世帯が多かった。アルマー村の海藻養殖を、台風の前よりも強固な産業にしたいと意気込むサラバオさん。今後は、1世帯あたり100本のロープ(0.6〜0.7ヘクタール)の水準まで規模を拡大するのが目標だ。
アルマー村で養殖される海藻は「キリンサイ」と呼ばれる紅藻の一種。主な用途は、「カラギナン」という多糖類の抽出だ。
カラギナンは、ゲル化(ゼリー化)や粘性の増強、保水性といった性質をもち、食品から化粧品、工業分野まで幅広く利用される。代表的な例は食品ではゼリー、アイスクリーム、ビール、化粧品ではシャンプーや日焼け止めなどだ。