ベナン南西部のクッフォ県トタ村に、パイナップルをはじめとする果汁100%のびん入りジュースを作って売る男性がいる。モリス・アベノンシさん(32歳)だ。2年前まではベナン最大の都市コトヌーで料理人をしていたが、「今のジュース屋の方が収入は良いし、時間の自由も利く」と満足げに話す。
アベノンシさんが自宅兼店舗で売るのは、パイナップルだけでなく、パパイヤ、ミックスフルーツ、薬草などのジュースや、ココナッツジャム、パームワインなど。「薬草ジュースはアロエ、オレンジピール、カシューの木の皮、ギニアコショウが入っていて、ベナンでも増えつつある糖尿病に効果がある」とアベノンシさんは言う。
2月は、とくに今の時期に多く出回るパイナップルやパパイヤを近くの農園から買い、絞り機で搾汁し、びん詰し、店頭に並べる。330cc入りのジュースの価格は1本500CFAフラン(約100円)。原価はおよそ半分の約250CFAフラン(約50円)だ。その内訳はパイナップル2個分200CFAフラン(約40円)、びんとふたで35CFAフラン(約7円)など。
ベナンで定番の炭酸フルーツ飲料「ユキ」は1本250CFAフラン(約50円)で売られているため、アベノンシさんが作る100%ジュースは倍の値段。だがコストを考えると、同じ金額にはできない。
アベノンシさんが作る100%ジュースの1カ月の売り上げは約300本。粗利(人件費を除く利益)率は50%なので、稼ぎは7万5000CFAフラン(約1万5000円)ということになる。妻1人、子ども3人を養うには十分だという。
とはいえアベノンシさんは100%ジュースの事業をさらに広げたいと野心を燃やす。今は村の中の知り合いに紹介するぐらいしかできていないが、地元のレストランや、日本人観光客も泊まりにくるNGOサリュトタが運営する宿泊施設などへの売り込みにも力を注ぐ。
「ジュース一式を抱えてアベノンシさんがやってきて、『無料でいいからこのジュースを試してほしい』」とお願いされた」とサリュトタ副代表のエケ陽子さんは話す。
コトヌーで11年にわたって料理人として働いたアベノンシさん。故郷のトタ村に戻り100%ジュースとジャムの店を立ち上げたのは2022年。脱サラした理由について「雇われではなく、自分がオーナーになって自由な人生を生きたかった。のどかな村の生活にも戻りたいと思った」と話す。
将来の夢は自分の農場をもつこと。また3人の子どもたちにはこの稼業を継いでほしいと願っている。こうした夢がかなうかどうかは、村人の健康志向とベナンの経済レベルがいかに上がるかにもかかっているといえそうだ。