【フィリピンのど田舎で、モッタイナイとさけぶ(7)】キロ単価は8倍に! ココナツオイルは農家を救うか

ココナツミルクを24時間置くと、下から、水分、オイル、ミルクのかす部分に分離するココナツミルクを24時間置くと、下から、水分、オイル、ミルクのかす部分に分離する

1キログラム20ペソ(約50円)で売っているココナツの値段を、8倍の150ペソ(約400円)にできないか――。現代の“錬金術”のようなプロジェクトに、私が青年海外協力隊員として勤務するフィリピン・ルソン島南部のティナンバック町農業事務所が挑んでいる。

私たちが使う錬金術は「ココナツオイル」への加工だ。美容・健康食品として注目されるココナツオイル。実は、ティナンバックは農地の90%以上をココナツ畑が占めるココナツの一大産地だ。だがオイルを加工する農家はゼロ。安い値段でココナツを実のまま出荷し、より高値がつく加工は町外の業者がするという「サヤン(フィリピン語で『モッタイナイ』)」な実情があるからだ。

■「かす」の除去が悩み

プロジェクトの狙いは、香りが良く、栄養価を残したバージンココナツオイルの作り方を農家に広めること。副収入を得ることにつながるからだ。

バージンココナツオイルは、普通のココナツオイルと違って、精製の際、化学溶剤を使わず、高温で熱しない。そうすることでココナツ本来の風味を失わず、栄養素を残すことができる。

バージンオイルを絞ること自体は簡単だ。果肉を絞ってココナツミルクを作り、それを瓶などに入れて24時間保存。すると瓶内で発酵し、水分、ココナツミルクのかす、オイルに分けることができる。

問題はこの先だ。分けたオイルは現在、スプーンですくい取っているが、同時にココナツミルクのかすもすくってしまう。かすは微生物を多く含むため、残ればびんの中で再発酵し、酸化の原因となる。厄介なのだ。

そこで目をつけたのが、フィルター付きのオイル絞り器。フィルターでかすを除去し、さらに40度以下の低温でじんわりと温めることで発酵を止める。絞り器は、フィリピン中部のボホール島で、ものづくりによる貧困解消に取り組む地域工房「ファブラボ・ボホール」で活動する青年海外協力隊員に作ってもらおうと検討している。

ココナツの果肉からココナツミルクを絞る筆者

ココナツの果肉からココナツミルクを絞る筆者

■「炒め油」の意識強く

ココナツオイルには、がんや心臓病を防ぐほか、髪や肌を若返らせ、またダイエット効果もあるとされる。「奇跡の万能油」といわれる。

なぜティナンバックにはオイルを絞ろうとする人がいないのか。理由のひとつに、健康や美容食品としてより、ココナツオイルは安価な「調理用オイル」との根強い意識がある。

このプロジェクトを立ち上げるにあたって私たちは、比較的収入が高い「将来の購買層」と見込む町役場の女性職員66人にココナツオイルの使用方法(複数回答可)についてアンケート調査した。71%が「調理用」と答え、「美容」の22%を大きく上回った。ココナツオイルは炒め油に使うイメージが強いのだ。

だが同時に、ココナツオイルを「健康・美容食品」として売り出せる可能性も見えてきた。回答者の83%がココナツオイルの購入に興味を示したのだ。330ミリリットルのボトル1本にいくら払えるかと尋ねたところ、「平均で150ペソ(約400円)」と思のほか高かった。550ペソ(約1500円)と答えた人もいた。

ちなみに今使っている美容品の値段を聞くと、発汗を抑えるパウダーは15ペソ(約38円、25グラム入り)、保湿のためのローションは42ペソ(約107円)、口紅は15ペソ(約38円)だった。

私たち農業事務所は、ココナツオイルに対して美容品の意識がないことを、逆にビジネスチャンスととらえている。健康や美容の効果をうたったチラシを作成し、町内でテストマーケティングする予定だ。

■4月の商品化めざす

私たちはココナツ農家10軒へのインタビューも実施した。そこでわかったのは、ココナツ1キログラム(3~4個)の買い取り額は平均20ペソ(約50円)ということ。1キログラムから取れるオイルは約330ミリリットルだ。女性職員たちが「平均150ペソ(約400円)は払える」と答えた量と同じ。つまり、ココナツは実からオイルに加工するだけで、8倍の値がつくのだ。

ココナツの実の買い取り価格が低い現状に「もっと値段が上がらないか」と不満をぶつける農家の声は多かった。10軒の1人当たりの月収は1636ペソ(約4400円)しかない。また、ココナツは収穫してから次の実が収穫できるまでに45日かかることから、収入が入るのは1カ月半に1回。ティナンバックのあるビコール地域は台風の通り道になることが多く、風雨で実が落下してしまえば、文字通り“実入り”は少なくなる。

「ぜひオイルに挑戦してみたいよ。収入が増えれば、生活も楽になるんだから」と、栽培歴15年のダリオ・アバンダーニョさん(53)は言う。

品質の高いココナツオイルの作り方を農家に教えるため、今は事務所で実験する日々が続く。早ければ2016年の4月ごろにも、多くの農家が技術を身につけ、町の商店にはココナツオイルが並ぶ。そんな青写真を私たちは描いている。

ココナツに囲まれたティナンバック。多くの実がそのまま出荷される

ココナツに囲まれたティナンバック。多くの実がそのまま出荷される