置き屋が昼間っから開店
この怪しさは街全体にも漂う。
街を歩いてまず目にするのが「会所」と書かれた看板。置屋のことで、ガラス張りの店の中では着飾った女の子たちがスマホを眺めている。
ラオスで売春は違法だ。首都のビエンチャンでも、置き屋は街の隠れたところでひっそりと営業している。だがゴールデントライアングル経済特区では置屋がメインロードに並び、女の子たちが白昼堂々と客引きをしていた。
街を行き交う車からも無法感を感じる。多くがナンバープレートを付けていないないのだ。代わりに車の後ろガラスの端に番号が書いてある。ラオスの法律ではない何か違ったルールがあるようだ。
もうひとつ気になったことがある。ゴールデントライアングル経済特区には国籍やバックグラウンドが違う人たちが多く集まっていることだ。素朴なラオス人、タナカ(日焼け止め効果のある木の粉末)を顔に塗ったミャンマー人は働き、タイ人のツアー客は15人乗りのゴルフカートで市内観光をする。そうした中、中国人は腹を出しながら我が物顔で街をねり歩く。
ラオスの入管で話しかけた長身のブロンド女性はロシア人だった。中国のモデルエージェントの紹介でゴールデントライアングル経済特区にやってきたのだが、どんな仕事をするかは詳しく知らないと言っていた。
アイスクリームを街角で食べていたのはエチオピア人とインド人。何しにゴールデントライアングル経済特区に来たのか、と尋ねると「マーケティングの仕事をしに来たのさ」と答えた。こんなところでマーケティングとはいったい何だろう。詳しく聞いたが、教えてくれなかった。
彼らははなぜ、ゴールデントライアングル経済特区にこぞってやって来るのか。どんな生活をしているのか。この街はどんなシステムで回っているのか。疑問が次から次へと湧いてくる。
もう少し取材したいと思った私は、ゴールデントライアングル経済特区で一泊することにした。だが空いている部屋が見つからない。50部屋ほどあるであろうホテルですら満室。閑古鳥が鳴くカジノ街のホテルがなぜ満室なのか。
こう疑問に思いながらも、数軒のホテルを当たっていく。中心地から少し離れたホテルで一部屋だけ空いているのを見つけた。1泊500元(約1万円)と高いが、仕方ない。私は支払いを済ませ、部屋に入ってベットの上に寝転んだ。犯罪の温床と呼ばれる街で緊張していたのか、私はすぐ眠りに落ちた。(続く)