女子教育は衰退していいのか? 国際機関が重視しなくなった謎を元UNICEF職員が語る

サルタックがネパールで実施した教育調査に協力してくれたネパールの女子大大学院の学生の前で講義する畠山勝太理事(写真奥)サルタックがネパールで実施した教育調査に協力してくれたネパールの女子大大学院の学生の前で講義する畠山勝太理事(写真奥)

「男女間の教育格差は解消できていない。にもかかわらず、女子教育に対する国際機関の取り組みはここ数年で衰退した」。これは、国連児童基金(UNICEF)の元職員で、現在はネパールで活動する教育NGOサルタックの理事を務める畠山勝太氏の言葉だ。畠山氏によると、国際社会が掲げる教育目標が近年多様化したことで、女子教育への注目度が相対的に低下。男女間の教育格差は形を変えて残っているという。

ジェンダーが消えた!?

女子教育に対する国際機関の取り組みが衰退した根拠として、畠山氏がまず挙げたのは、UNICEFの教育戦略のターゲットから「ジェンダー」が消えたことだ。UNICEFは2006~2015年、幼児教育、不就学、ジェンダーなどの5つをターゲットとして掲げていた。だが2019~2030年の教育戦略では、ジェンダーは「公平性とインクルーシブネス」の一要素へと格下げになった。

畠山氏はまた、世界銀行の教育戦略2020 Learning for Allでも、識字率の向上などに注目が集まり、ジェンダーの優先順位が落ちたと指摘する。

こうした背景には、世銀の総裁やUNICEFの事務局長を実質的に指名する米政権の影響もあるという。

「オバマ政権では、ファーストレディのミシェル氏が女子教育を推進していた。だがトランプ政権になってそれが消えてしまった」と畠山氏は推測する。

国際機関の政策の中心から消えたといっても、女子教育の重要性が薄まったわけではない。畠山氏が懸念するのは、男女間の教育格差が目に見えづらくなっていることだ。

そのひとつに、「学びの質」の格差がある。

畠山氏は「(世界全体の傾向として)就学率だけを単純に見れば、男女の差はなくなってきた。だが公立の学校に通う生徒で多いのは女子、私立の学校で多いのは男子という現象が見られるようになってきた」と説明する。

国連児童基金(UNICEF)が実施する国際的な家計調査「MICS(Multiple Indicators Cluster Survey)」のデータを分析したところ、ネパールでは、公立よりも教育の質が高い私立に通うネパールの子どもの割合は、ほとんどの年齢帯で女子のほうが10%以上低いことがわかっている。

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