ネパールでは学校に行っても意味がない? 教育NGOのサルタックが「読書」で子どもの学力アップ目指す

読み聞かせ小学校で読み聞かせをしているところ(ネパール・ラリトプル)

「ネパールの子どもたちは、小学校を卒業しても7歳児レベルの読解力さえ身につけていない」。こう語るのは、ネパール・カトマンズの近郊にあるラリトプル市に住む貧しい子どもたちに「読み聞かせ」などをするNPO法人サルタックの畠山勝太理事だ。読書を通じて、すべての学びのベースとなる読解力を養うことで、 子どもの学力を上げ、貧困からの脱却を目指す。

通学期間が長いと貧困から抜け出せる?

サルタックの読書活動は大きく4つある。

1つめは、小学校で絵本の読み聞かせをする「読書クラス」を運営することだ。ラリトプル市内の3つの公立小学校で週に一度、授業のひとこまや放課後を使って開く。子どもたちの前で本を読むのは、15~20人の地元の大学生だ。

サルタックが読み聞かせにこだわるのは、質の高い教育を受けられない最貧困層の子どもでも、本を読む機会さえあれば、すべての学習の基礎となる読解力を養えるからだ。

国連児童基金(UNICEF)が2019年に実施した国際的な家計調査「MICS6」によると、ネパールの小学校での出席率は90%を超える。そこに貧富の格差はない。

ところが、最貧困層の7~14歳の子どもの平均をみると、7歳児レベルの基礎的な読解力を身につけているのはたったの33.4%しかない。最富裕層の子どもでも56.0%と割合は低いが、最貧困層の状況は深刻だ。畠山氏は「子どもたちは学校に通っていても全然学んでいない。これでは貧困からの脱出も(国の)経済成長も進まない」と語る。

ただ最貧困層のなかでも、基礎的な読解力(7歳児レベル)をもつかどうかは「家に本があるかどうか」で大きく変わる。10歳児を例にとると、1冊以上の本が家にある最貧困層の子どもの51%が基礎的な読解力を身につけている。これは、本が1冊もない最富裕層の子どもの50.1%を上回る。

畠山氏は「本に触れる機会が大切。本があれば、最貧困層の子どもが最富裕層の子ども以上に読解力を身につけられる可能性はある」と説明する。

読解力は言うまでもなく、すべての勉強の基本だ。「(読解力さえあれば)理科や社会といったほかの科目も理解できる。農業や工業の技術書も読める。将来のキャリアにつながる」(畠山氏)

おもしろいデータがある。教育経済学者であるハヌシェック氏(スタンフォード大学)とベースマン氏(Woessmann、ミュンヘン大学)による2010年の研究では、「その国の子どもが学校に通った平均年数」と「その国の経済成長率」にはまったく関係がないことがわかっている。

たとえば平均教育年数の長いルーマニア、日本、イスラエルは経済成長率が低い。これに対して、経済成長率の順位が比較的高いチュニジア、モロッコ、ポルトガルの平均教育年数は短い。

だが対照的に、「子どもの学力」と「経済成長率」は比例する。国際学力調査の成績で1位のシンガポール、2位の台湾、3位の中国は、経済成長率が高い。一方、国際学力調査の成績が低いペルーや南アフリカは、経済成長率の順位も下だ。

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