「セネガル相撲」選手の知られざる葛藤、賞金の半分は呪術師にとられていた

鍛え抜かれたアルバルカ・カエレ選手の肉体。スクワットで200キログラムのウエイトを上げられるという。本人はダカールの下町バラカ生まれだが、両親はセネガルの南に位置するギニア共和国からの移民

セネガルの国技ともいえるのがセネガル相撲だ。チャンピオン「ロイ・ド・アリーナ」(闘技場の王)になれば国民的英雄としてその名をとどろかせ、数千万円単位の大金を稼げる。だがその陰で大半の選手は苦しい生活を余儀なくされる。ダカール在住で、セネガル発祥のイスラム神秘主義教団「ムリッド教団」の信者である現役選手アルバルカ・カエレ選手(31歳)は「試合に勝つにはマラブー(呪術師)から力を得ることが不可欠だ」と語る。

「パンチあり」の相撲

アルバルカ選手がセネガル相撲を始めたのは14歳のとき。といってもパンチなしの「伝統的なセネガル相撲」だ。このころはバラ・ゲイ選手が人気を博していて、彼に憧れていたという。

セネガル相撲とは、まわしを締めた選手2人が大きな砂のリング上で戦うもので、両手と両膝がすべて、または背中が地面についたら負けだ。パンチありとなしの2種類があって、伝統的なセネガル相撲は「パンチなし」。プロだと「パンチあり」と激しい殴り合いも見られ、さらに賞金も付く。

アルバルカ選手がプロに転向したのは2014年。それ以来12年間で19試合戦ってきた。戦績は12勝7敗。

アルバルカ選手によると、スター選手を除くセネガル相撲の賞金の相場は、勝てば100万~300万CFAフラン(28万~84万円)、負ければ1000CFA(約280円)ぐらいだという。セネガル相撲はボクシングのようにマッチメイクする仕組みになっていることから試合数も少なく、セネガル相撲一本で食べていくのはなかなか至難の業だ。

そのためアルバルカ選手は、自動車の整備・修理の仕事をしたり、かつて所有していた3台のバイクを「バイクタクシー」として貸し出し、運転手から1人1台当たり2000CFAフラン(約560円)を受け取ったりして糊口をしのいできた。

5人の呪術師に祈願

アルバルカ選手はこの2月、ダカール近郊にあるアレーヌ・ナショナル(セネガル相撲専用の国立競技場)でフラン選手と試合をした(下は動画)。

「3分で相手を倒した」と鼻高々のアルバルカ選手。100万CFAフラン(約28万円)の賞金を獲得した。ところがアルバルカ選手自身が実際に手にしたのはその1割の10万CFAフラン(約2万8000円)だったという。

必死に練習し、命がけで戦い、勝ったにもかかわらず、得た金額はたったの約2万8000円。しかも払われた賞金の1割だ。

この理由についてアルバルカ選手は「コーチ、練習させてもらうクラブ、マラブーに払わないといけないから」と説明する。とりわけ重要なのは勝利を祈願してもらうマラブーへの謝礼で、アルバルカ選手は試合のたびにマラブーから腰に巻く飾りやポケットに入れる小物などの“グリグリ(マラブーがかける呪術)グッズ”を買っている。

「試合で勝つには1人のマラブーでは足りないんだ。それぞれ役割が違うから。5人のマラブーに頼んだ」とアルバルカ選手。マラブー1人当たりに払ったのは10万CFAフラン(約2万8000円)。5人合わせると50万CFAフラン(約14万円)と、賞金の半分がマラブーに行く計算だ。

アルバルカ選手のお気に入りのマラブーはアルビノのセイン・ハディム氏だ。セネガルでも有名なマラブーだという。ムリッド教団の信者であるアルバルカ選手は、絶対的な精神的指導者として彼を崇拝し、グリグリグッズを腰や腕、足首などに身につけ、聖水や聖なる牛乳を頭から被り、試合に臨む。

ちなみに同じ試合で対戦する2人の選手が同じマラブーに頼むとどうなるか。マラブーはもらえるお金が高いほうの選手につく。また、イマム(イスラム指導者)がお金を稼ぐ目的でマラブーをこっそりやることもあるという。

西洋の格闘技と違い、セネガル相撲では欠かせないマラブーの存在。宗教的(イスラム教、アニミズム)であり、と同時にビジネス的な側面も併せ持つようだ。

アルバルカ選手のベルトの上に巻いているものがグリグリ

アルバルカ選手の手の中にあるグリグリ。ふだんはズボンのポケットに入れている

セネガル相撲をとるアルバルカ選手。「(ワン・チャンピオンシップで活躍するセネガル人格闘家の)ルッグルッグ(オマーン・ケイン)みたいになりたい」と語る

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