FIFAのサッカー戦略から学ぶ、「途上国支援」が組織の価値を上げる

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FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ(W杯)ブラジル大会が6月12日、いよいよ開幕する。FIFAは、知る人ぞ知る「途上国支援」に力を入れる団体だ。FIFAの加盟協会数(メンバー国・地域)は209と、国連加盟国の193を上回る。この機会にFIFAのサッカー戦略を考えてみたい。

■UNICEFと提携、子どもを守る!

「football for all, all for football」(すべてのためにサッカーを、サッカーのためにすべてを)。これは、FIFAのジョセフ・ブラッター会長の哲学だ。換言するならば、サッカーのステークホルダー(利害関係者)は、欧州の成人男性だけでなく、子どもや女性、途上国の貧しい人たちも含むと理解できるだろう。FIFAの戦略は、このフレーズに凝縮されているといっていい。

こうした考えのもとFIFAは1990年代から、途上国の社会問題の解決に向けた活動を始めた。その象徴のひとつが国連児童基金(UNICEF)との提携で、「Pure Hope, Pure Football」(純粋な希望、純粋なサッカー)と命名するキャンペーンを発足させた。試合前の入場で子どもたちが選手をエスコートするようになったのもこのキャンペーンの一環だ。

FIFAは売り上げの一部をUNICEFに寄付し、UNICEFのプロジェクトを資金面でサポートする。両組織がタッグを組んだことで、アルゼンチン代表のリオネル・メッシ選手や2013年5月に引退したデビッド・ベッカム氏などサッカー界のスーパースターがUNICEF親善大使に就任。UNICEFのプロジェクトサイトを訪れるようになった。サッカー好きの子どもたちにとって一流サッカー選手とのふれあいはとてつもなく大きな勇気をもたらすだろう。

両組織は、2002年の日韓W杯では「Say Yes for Children」(子どものためにイエスを)をスローガンとする世界キャンペーンを打った。世界中が注目するW杯の試合を使って、子どもの権利への意識を高めることを狙ったのだ。「子どもへの虐待や搾取をやめさせる」「すべての子どもに教育を」「子どもを紛争から守る」などの原則を掲げた。

■「児童労働」にレッドカード! 開幕戦に注目

FIFAの社会貢献活動で成功を収めたもののひとつは「児童労働」との闘いといえるかもしれない。

サッカーボールの多くは、パキスタンやインドの子どもたちが手縫いをして作っている。単刀直入にいうならば、学校に通わず、生活のために低賃金で働く子どもを搾取しているからサッカーが成り立つわけだ。こうしたボールをFIFAはかつて国際試合で使っていた。

この状況をFIFAは変えた。児童労働で作ったボールを現在は公式球に採用していない。FIFA、国際機関、NGO、スポーツ業界がこの問題にコミットした結果、いまではサッカーボールの生産現場での児童労働はほぼ撲滅できたとされる。

とはいえ、途上国でまん延する児童労働がなくなったわけではない。UNICEFによると、児童労働に従事する5~14歳の子どもは全世界で推定1億5000万人。これは、同年代の世界人口の6人に1人に相当する。

W杯が開幕する6月12日は奇しくも「児童労働反対世界デー」だ。FIFAと国際労働機関(ILO)はかねて「児童労働にレッドカード!」と題するキャンペーンを展開してきたが、開幕戦でも「児童労働反対」の意思表示としてレッドカードでサッカー場の観客席を埋め尽くす計画という。

ILOによれば、児童労働がまん延する理由は主に4つある。「貧困」(失業、教育の欠如)、「危機」(災害、親の死)、「慢性的な非常事態」(繰り返される干ばつや飢饉)、「紛争」(戦争、政府の汚職)だ。ILOは、子どもから健康や教育、幸福を奪う「最悪の形態の児童労働」を16年までになくすことを目指している。児童労働の実態とILOの活動を広く知ってもらうためにFIFAは、自らの強みであるW杯を活用する。

FIFAはなぜ社会問題に熱心に取り組むのか。その答えは明快だ。社会貢献を前面に打ち出せば打ち出すほど、サッカーは、世界のすべての人に希望を与え、社会の発展を約束するスポーツへと“ランクアップ”する。その結果、多くの人や企業から共感を得られる。FIFAの戦略はまさに、マイケル・ポーターが提唱する「共通価値の創造」(CSV)を体現するモデルといえるだろう。(堤環作)