2017-04-19

OECDが初の「生徒の幸福度調査」、親・教師との良い関係が成績・幸せにつながる

OECD PISAによる生徒の幸福度に関する初の調査によると、10代の若者で学校の一員であると感じ、親や教師と良好な関係を築いている生徒は、学業成績も良く幸福だと感じる傾向が強く見られます。

「生徒の幸福度:PISA2015調査結果 (Students’ Well-Being: PISA 2015 Results)」は、学校で良い成績を上げようという生徒の動機、同級生や教師との関係、家庭生活、学外での時間の過ごし方を分析した初の報告書です。これは、科学、数学、読解力を調査したPISA2015調査に参加した72カ国、54万人の生徒を対象に行われた調査結果に基づいています。

多くの生徒は、学校の勉強と試験のことを非常に心配しており、本書の分析から、これは学校での授業時間数や試験の頻度ではなく、教師や学校がどのくらい自分を支援してくれると感じているか、ということと関係していることがわかります。OECD諸国平均で、生徒の59%が試験が難しいのではないかと心配することが多いと答えており、また66%は悪い成績を取ることにストレスを感じると答えています。約55%の生徒は、試験勉強をしっかりしたにも関わらず、非常に不安に感じると答えています。全ての国々で、女子生徒の方が男子生徒よりも学校の勉強に関してより大きな不安を抱えていると答えています。また、学校の勉強、宿題、試験と成績との間には負の関係があります。

生徒の学校での幸福(well-being)の条件を創出する上で、教師が大きな役割を担っており、政府は教師の役割を授業時間数のみによって定義するべきではありません。幸福だと感じている生徒ほど、教師との関係が良好だと答える傾向があります。学校での満足度が、国の平均的な生活満足度を上回っている生徒は、それを下回っている生徒よりも、教師から受ける支援の水準が高いと答えています。

ガブリエラ・ラモスOECD首席補佐官は、ロンドンで開かれた発表会見で次のように述べました。「この結果から、教師と学校、親が現実に子供たちの幸福をいかに変えうるかということが明らかになっている。彼らが協力することで、若者が自分の将来をコントロールする感覚と人生で成功するために必要な忍耐力を養うことができる。秘訣はない。自分が評価されていると実感し、十分に支援を受けていると感じ、成功への手助けを得られると思えば、成績も良くなる。」

親も現実的に大きな違いをもたらすことができます。親が定期的に「子供と話をする時間を持っている」、「子供と食卓を囲んでいる」、「学校でうまくいっているか話し合っている」と答えた生徒が生活満足度が高いと答える割合は、そうでない生徒よりも22~39%高くなっています。学業成績への影響も少なくありません。親と話をする時間を持っている生徒は、科学の学習において3分の2学年程度進んでおり、社会経済的地位を考慮しても、その優位性は3分の1学年分あります。

この調査から、いじめが学校における主要問題の1つで、かなりの割合の生徒がいじめの被害に遭ったことがあると答えていることがわかりました。OECD諸国平均で、生徒の約4%-1クラスにつきほぼ1人-が、1か月に少なくとも2、3回は叩かれたり突かれたりしていると答えており、その割合は国によって1%から9.5%まで幅があります。生徒が教師と良好な関係を築いている学校では、いじめは少なくなっています。親は学校の運営計画といじめ対策に関与する必要があり、学校はその他の機関やサービスと連携して包摂的ないじめ防止・対策計画を実施する必要があります。

OECD加盟国平均で、15歳の生徒のほとんどは、自分の生活を幸福だと考えており、生活満足度尺度0~10のうち、7.3程度だと答えています。しかし、これは国ごとに大きな差があります。オランダでは、生活に満足していないと答えた生徒の割合は4%を下回っているのに対して、韓国、トルコでは、20%を上回っています。

女子生徒と恵まれない環境にある生徒は、男子生徒や恵まれた環境にある生徒よりも、生活満足度を低く答える傾向があります。PISAでは、15歳の女子生徒の方が生活満足度を低めに答えていますが、これは女子生徒の方が自己批判が厳しいこと、特に女子生徒が身体的に大きく変化する時期に自分の体に対して持つイメージに関わる批判を反映していると考えられます。PISA2015では、生徒の身体に対するイメージについてのデータは集めていませんが、食習慣に関する調査結果には、女子生徒の方が男子生徒よりも朝食を抜いたり、夕食を抜いたりする傾向が強く表れていました。

研究によると、痩せすぎの女性の画像がメディアやソーシャルメディアに露出していることが、女子生徒の自分自身に対する満足度に否定的な影響を及ぼしています。その原因は複雑で多角的ですが、ジェンダーに関するステレオタイプを拡散するメディアの役割が、女子生徒の幸福を蝕んでいると考えられ、OECDはこの問題を集中的に調査することにしています。

その他の主な結論は、下記の通りです。

学校の成績と生活満足度

・67カ国のほとんどの生徒は、学校への帰属意識を持っている。恵まれない環境にある生徒は、恵まれている生徒よりも学校への帰属意識が7.7ポイント低く、第一世代の移民(親に連れられて移民してきた子供)の生徒の場合は移民でない生徒よりも4.6ポイント低い。

・女子生徒の方が男子生徒よりも、学校でトップの成績を収めたい、卒業後に最良の機会を選べるようになりたいと答える傾向がある。しかし、男子生徒の方が何をするにしても意欲的でトップになりたいと熱望する傾向がある。

・OECD諸国平均で、15歳の生徒の44%は大学を修了したいと考えている。コロンビア、韓国、カタール、米国では、生徒の4人に3人がそう望んでいる。進学に対する生徒の期待は、教育政策、特に様々な進路に生徒を振り分ける度合いに影響を受ける。

生徒の学校での社会生活

・教師から何らかの不公平な扱い(厳しい罰を受けた、不愉快に感じた、他の生徒の前で馬鹿にされた)を少なくとも1か月に2、3回受けたことがあると答えた生徒は5人に1人だった。

・女子生徒の方が物理的な攻撃を受けることは少ないが、ひどい噂を流されたりすることが多い。

・いじめが頻繁に起きる学校に通っている生徒は、いじめが少ない学校の生徒よりも、国際標準から見て、科学の点数が47点低い。いじめに頻繁に遭っていると答えた生徒は、学校への帰属意識も弱く、生活満足度も低いと答えた。

生徒の学外での時間の過ごし方

・OECD諸国全体で、約6.6%の生徒が学外で中程度の運動も激しい運動もしておらず、運動を全くしない生徒の割合は、女子の方が男子よりも1.8ポイント高い。運動をしている生徒の方が、学外での運動に参加していない生徒よりも学校をサボったり、学校で阻害されていると感じたり、勉強について非常に不安を感じたり、頻繁にいじめを受けたりすることが少ない。

・OECD諸国平均で、約23%の生徒が賃金をもらって働いており、73%が自宅で働いていると答えた。女子生徒より男子生徒の方が賃金をもらって働いている子供が多く、無給の家事労働では女子生徒より男子生徒の方が少ない。

・OECD諸国平均で、生徒は平日の放課後に2時間以上、週末に3時間以上をオンラインに費やしている。2012~15年に、学外でオンラインに費やす時間は平日、週末とも1日当たり約40分増えた。

PISA調査結果の政策的意味合い:

生徒の学業に関する不安を削減するためには、教師には専門性開発の機会を与えることで、不安を感じている生徒を特定し、彼らに間違いから学ぶ方法を教えることができます。例えば間違いを肯定的に受け入れさせる方法の1つは、試験や小テストなどでそのクラスの生徒に最も共通した間違いを取り上げ、生徒たちに一緒に分析させるというものです。さらに、教師は生徒に自分で現実的かつ挑戦的な目標を設定させることができます。それにより、生徒は自分で設定した目標を達成できたときに、自分が学習していることに価値があると考え、学習のプロセスを楽しむようになります。目標設定を奨励し、学習の内因性動機付けを拡大する戦略には、学習活動に対する有意義な論理的根拠を与え、生徒が課題についてどう感じているかを認識し、過度のプレッシャーとコントロールを避けることも含まれます。評価結果について建設的な意見を与えることによっても、生徒の自信とやる気を養うことができます。

PISAからは、生徒の学校への帰属意識を損なう主なリスクの1つは、教師との関係が良好ではないという認識です。教師と生徒との良好な関係を築くには、教師が生徒を観察し、話を聞き、異文化間コミュニケーションを行う基礎的な方法の訓練を受けるべきです。教師はまた、生徒が抱える問題、性格、強みに関する情報を同僚と共有するよう奨励されるべきで、それによって教師は、生徒が学校の一因であると感じられるようにする最良のアプローチを共同で見つけることができます。

またデータからは、生徒の大多数が学校でいじめの被害に遭ったと答えていることが明らかになっています。有効ないじめ対策プログラムは、教師にいじめへの対処方法を指導すること、生徒に対して無記名の調査を行いいじめの蔓延を監視すること、親に情報を提供し関与させる戦略などを含む、学校全体でのアプローチに従っています。学校でのいじめ防止には、教師と親が特に重要な役割を担っています。教師は生徒がどのような形のいじめも我慢することがないように、生徒と意思疎通をする必要があります。そして親は、学校のいじめ対策に関わる必要があります。

文化的、経済的に多様な18カ国から得られたPISA調査結果によると、親が一緒に食卓を囲む、おしゃべりをする時間を持つといった毎日の家庭生活に日常的に関わっている生徒は、PISAの成績が良いだけでなく、自分の人生に対する満足度も高くなっています。学校は、例えば仕事を持つ親のために柔軟なコミュニケーションのチャネルを設けたり、親が家庭生活と学校の双方に関与できる方法を提案したりして、親が学校行事に参加する障害を取り除くことで、子供の教育にもっと関与できるよう手助けすることができます。

生徒の幸福度を高めるために、学校は生徒に保健体育などの教育を通じて、活動的で健康な生活スタイルのメリットを教えるべきです。学校での体育教育に参加させることによって、学外で運動をしない生徒の数を減らすこともできます。

プレスリリース:http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/most-teenagers-happy-with-their-lives-but-schoolwork-anxiety-and-bullying-an-issue-japanese-version.htm