世界では成人の半数は銀行口座をもっていない、「2020年までに全成人に金融アクセスを」と世銀

世界銀行グループは、「世界金融開発報告書2014年版:金融サービスへのアクセス」と題する報告書を発表した。このなかで、貧困層や女性などの「脆弱層」に大きな恩恵をもたらす金融措置に重点的に取り組むよう、各国の政策担当者に呼びかけた。背景には、世界の成人人口の約半数(25億人)が銀行口座をもっていない現実がある。

■ネットバンキングはアマゾンにも

多くの途上国で金融サービスの拡大を後押しているのが技術革新だ。とくにインターネット・バンキングは、ケニアやフィリピン、タンザニアなどで、低所得層が金融サービスにアクセスできるよう重要な役割を果たしてきた。

なかでもブラジルでは、アマゾン川流域の小売店やガソリンスタンド、オートバイやボートの販売代理店などが銀行の金融サービスを代行する「コルレスバンキング」が普及。遠隔地への金融アクセス拡大に一役買った。報告書は、技術革新で金融サービスの価格が下がり、アクセスしやすくなる恩恵を一番受けるのは貧困層だ、と指摘する。

先進的な技術を使わずに「政策」で、貧困層や女性、若年層、農村居住者の口座利用を普及させるやり方もある。多くの途上国政府は、手数料が安い口座を提供するよう金融機関に義務付けたり、煩雑な書類を必要とする手続きを免除したり、また政府補助金の口座振り込みで電子決済を利用するなどの政策を進めている。

南アフリカでは、官民連携の取り組みが奏功し、銀行口座の数が4年で600万件増えたという。またブラジルでは、規制改革の成果として、金融サービスを提供する拠点の数が飛躍的に増加。現在はすべての自治体で金融サービスが提供されるようになった。

金融サービスへのアクセス向上について目標を設定している国は50カ国以上ある。ジム・ヨン・キム世銀総裁はこの10月、「電子マネー口座やモバイル・ウォレットなどの革新的な技術を活用し、2020年までに、就労年齢のすべての成人に金融アクセスを提供する」新たなイニシアティブを発表した。

■銀行を使った貯蓄率は11

金融サービスが広がる一方で、課題も残されている。第一に、数百万人の口座が休眠状態にあること。第二に、健全な競争や効果的な規制がないため、返済能力のない人にまで過剰に貸し付けていることだ。

第三の課題として「金融サービスの使い方」もある。世銀金融アクセス・データベース(グローバル・フィンデックス)によれば、成人人口のうち貯蓄をしている人の割合は2011年時点で高所得国の58%に対し、低所得国は30%とおよそ半分だった。

成人人口のうち銀行口座を利用して貯蓄をしている人の割合をみても、高所得国の45%に対し、低所得国はわずか11%に過ぎない。さらに、正規の金融機関で借り入れをした成人の割合は世界全体で約9%だが、途上国では、家族や知人から借金をする割合が27%にものぼっていることがわかった。

こうした問題に対応するため世銀は、革新的な金融商品の開発を支援するよう、政策担当者に働きかけている。たとえば、一定期間が過ぎるまで、または一定の目標が達成されるまで預金の引き出しができない条件付きの口座を作れば、預金を促すことが可能となる。

報告書はこのほか、金融教育の重要性についても言及。金融教育は、就職や住宅ローン申請など重要な節目で消費者が受けると効果的だが、授業形式ではなく、テレビドラマなどで興味を引きつけたほうが伝わりやすいことを強調した。

キム総裁は「金融サービスへのアクセス拡大は、効果的なエンパワーメントの手段になりうる。すべての人が金融サービスにアクセスできるようにすることは貧困撲滅につながる」と話す。