バルカン諸国からドイツへの難民申請が急増、受け入れられたのは0.3%のみ!

2015年1~10月のドイツへの難民申請数(ドイツ内務省のホームページから引用)

この夏、ハンガリーなどで足止めになっていたシリア難民の受け入れを一番に表明し、一躍称賛を浴びたドイツ。難民対応の予算の100億ユーロ(約1兆3000億円)増額も即時決定し、欧州でシリア難民の最大受け入れ国となっている。だがドイツでの難民申請を見ると、意外な事実が浮かび上がってくる。コソボ、アルバニアなどのバルカン半島諸国出身の難民が急増しているのだ。

■コソボ出身者は11倍に

ドイツ内務省のデータを基にした統計によると、同国への難民申請者の出身国別の数は1~10月で、シリアが10万3708件と予想通り1位。2位から4位までをアルバニア(4万9692件)、コソボ(3万5583件)、セルビア(2万4486件)のバルカン諸国が占めた。また、1~7月の申請数を2014年同期の申請数と比較すると、シリア出身者からの申請が2.6倍に増えたのに対し、アルバニア出身者は6.3倍、コソボ出身者は11.1倍と、バルカン諸国からの難民が急増したことがわかる。

さらに意外なのは、ドイツが、これらバルカン諸国からの難民をほとんど受け入れていない、という実態だ。先の統計によると、バルカン半島出身者の難民申請の99.7%が棄却されている。シリアからの難民申請の棄却率がわずか0.02%だったことと比べると、衝撃的な数字だ。

これは、アルバニア、旧ユーゴスラビア諸国、トルコを含むバルカン諸国が順調な経済回復をしている、と見なされているためだ。欧州では、これらの国々の出身者たちは難民ではなく、実質「経済移民」として扱われているからだ。

■なぜドイツを目指すのか?

もともと、1990年代の旧ユーゴ紛争時に、多くのバルカン諸国民が移住を余儀なくされ、西欧へと向かった。中でもドイツは、ユーゴ難民受け入れの代表国だったが、ここにきてなぜ、再び、バルカン半島からの難民が増えているのか。

最大の理由は、バルカン諸国のここ数年の失業率の増加とみられる。コソボの失業率は公式で30%、非公式データでは40%。アルバニアでも高い失業率が深刻な問題となっている。また、イスラム教徒のアルバニア人が住むバルカン諸国内の地域で、イラク・シリアで勢力を強める「イスラム国」(IS)の影響を受けて過激化した若者が増加し、社会情勢が不安定化していることも理由のひとつとされる。

コソボの独立をめぐり長年対立していたセルビアとコソボが、欧州(EU)への加盟に向けて両国間の国境の入国検査を大幅に緩和したことも、コソボ難民の増加の要因だ。さらに、シリア・イラク情勢を受けて、「欧州諸国の難民受け入れ政策が柔軟になった」という噂が、ソーシャル・ネットワーキング・サービス上で執拗に繰り返されていることも、バルカン諸国の若者が欧州を目指す動きを加速させた。

■「ドイツを愛している」

この状況を受けてドイツ内務省は、バルカン諸国民向けの広報動画を作成。「経済移民」として扱われるバルカン出身者の難民申請は受け入れられない、というメッセージを伝える情報キャンペーンを打っている。

しかし、この対策の効果はかなり疑わしい。

米紙ウオールストリート・ジャーナルの記事に登場した、ドイツで難民申請中のコソボ出身の兄弟は「ウィ・ラブ・ジャーマニー(ドイツを愛している)。ドイツに来ることしか考えられなかった。もし庇護を受けられたら、それでよし。ダメなら、帰る。他にできることは何もない」と語る。彼らにとっては、ドイツこそが最後の望みなのだ。