ケニア南西部に位置し、タンザニア国境に近いマサイマラ国立保護区にいるマサイ族。マサイマラで生まれ育ち、ウシやヤギなどの家畜を売り買いするデイビット・サバさん(31歳)は「マサイ族には昔から、ウシやヤギの睾丸を食べる文化がある。動物の新鮮な睾丸は栄養価が高く、ご馳走だ」と語る。
ジューシーなレバー?
マサイ族はゲストを歓迎するとき、家畜を殺し、豪華な食事で盛大にもてなす。ヤギの体のほとんどは火を通し、焼いたり蒸したりして食べるが、「生食」にこだわる部位もある。「睾丸」と「血」だ。
ヤギを殺した直後の生の睾丸は新鮮であるため、臭みは一切ない。塩や胡椒などの調味料は一切使わず、そのままの味を堪能するのがマサイスタイル。
睾丸の色は透明感のある桃色。大きさは直径10センチメートルほど。ハート形をしている。
筆者も食べたところ、味は、水っぽいレバーのよう。鉄分を感じる味だった。食感はジューシーで柔らかい。不快感はまったくなかった。
マサイマラで教師として働くテリー・ワンジャラさんは「生の睾丸は特に妊婦にすごく良い食べ物なの。栄養がたくさん入っているから、体が強くなって戦士のように無敵になる」と話す。
マサイ族の間では睾丸は人気の食べ物だ。動物を解体して睾丸が出てくると、その周りに人が寄ってくるという。筆者がマサイマラ国立保護区を訪れたとき、一匹のヤギからとれる2つの睾丸を半分にカット。4つに分けて、その1つを筆者にくれたが、残りの3つを誰が食べるか、話し合っていた。
ヤギの血は生で飲む
ヤギの血を「生」で飲むのもまた、マサイ族の伝統文化のひとつだ。
ヤギの足を縛って、横に寝かせる。切った首元から、ドボッと血があふれ出る。ヤギの後ろ足をひとりの男性が重たそうに斜めに上げ、血をさっと容器で受けとる。取れたての血を何回か小枝で混ぜ、その場でゴクッと飲むのだ。
ワンジャラさんは「マサイ族の間では、ヤギの首を切った直後の新鮮な血は、病気を治す薬として信じられているの。また人間の予防薬としても飲むのよ」と言う。マサイの漢方薬といった具合だ。
筆者も飲んでみたところ、ヤギの血は生温かった。口の中を切ったときに出る血よりも少しドロッとした濃い血の味がした。飲み残しは地面に捨てる。
マサイ族は、ヤギの皮とひづめ以外のすべての部位を食べたり飲んだりする。ひづめは捨て、皮は乾燥させて座ったり寝たりするためのマットとして使う。