【ミャンマーが「セックス観光大国」になる日②】貧困女性にとって売春ビジネスは最後の頼みの綱なのか!?

0409高野さん(2)写真①ヤンゴンの歓楽街にあるレストランでは毎晩「ファッションショー」が開かれる。客は気に入ったモデルに花束(1つ5000チャット=約500円)をかけることで、今晩の売春交渉権を獲得する。仕組みはナイトクラブやディスコと同じ

その様子は隣国タイの「ゴーゴーバー」を彷彿させる。ミャンマー人らしからぬ大胆に肌を露出したドレスにハイヒールをまとった女性モデルの数々。ライトアップされたステージを練り歩く彼女たちには花束がかけられ、男性客は歓声をあげる。ミャンマーのナイトライフで定番の「ファッションショー」だ(連載①)。

■「ショー」という名の品評会

ミャンマーでは売春・買春は違法。風俗店は本来ないはずだ。摘発されれば男女ともに禁固1~3年、または多額の罰金をとられる。ところが実際はナイトクラブやディスコなどが男女間の売春交渉の場となり、店が売買春を斡旋している。

その象徴といえるのが冒頭のファッションショー。ショーに出演する女性たち(レディーボーイもいる)は「モデル」と呼ばれる。モデルといえば聞こえは良いが、実はプロのセックスワーカー(売春婦)だ。彼女たちは店に雇われていて、ファッッションショーは今晩の売春客を得るためのいわば「客寄せ」、客からすれば「女たちの品評会」だ。明らかに未成年な幼いモデルも交じっている。

おもしろいのは売春交渉のシステムだ。客は1つ5000チャット(約500円)の花輪を店から買ってモデルにかけることで、その女性と一夜をともにする交渉権を獲得する。人気のモデルとなると複数の花輪かかることもざら。対照的に花輪ゼロのモデルもいる。客同士でモデルを巡って花輪の数で競争をさせ、売春金額をつりあげていく仕組みだ。

「ファッションショーのモデルの一晩の相場は8万~10万チャット(8000~1万円)くらい。だけど平気で1~3割は上乗せする。彼女たちは自分の価値を知っていて、きれいなモデルには外国人客は平気でお金を払うから」。ヤンゴンの有名ナイトクラブのボーイはこうしたセックスツーリズムが日常的に行われていることを明かす。

■売春婦は全土で6万人以上

違法にもかかわらず、売春ビジネスはなぜ横行するのか。ナイトクラブやディスコが売春の斡旋をしていることをミャンマー当局(警察、国軍、政府)は知っていて、摘発はたまにするものの、店側が賄賂を渡して逃れることは日常茶飯事だからだ。店側は賄賂を支払うことで営業許可や時間帯で便宜を図ってもらう。当局は多くのポケットマネーを手にしていると聞く。この癒着関係が売春ビジネスのなくならない理由のひとつだ。

ただより深刻なのは、売春に進んで身を投じる若者(多くは女性)が後を絶たないこと。また、セックス目当ての客(外国人旅行者など)が増え続けていることだ。

経済発展が著しいミャンマーとはいえ、都市部でも1日精一杯働いて5000チャット(約500円)稼げれば良いところ。客がつけば一晩で5万~10万チャット(5000~1万円)の大金を手にできる売春が魅力に映るのは無理もない。旅行者にとってみれば、まだ途上国であるミャンマーは周辺国に比べて物価が安く、夜遊びも安上がりだ。

「ミャンマーでは女性のセックスワーカーは少なく見積もって6万人。その半数近くがヤンゴンで働いている」。ミャンマーでHIVや売春問題に取り組む団体SWIM(Sex Workers in Myanmar Network)は2013年のレポートで報告する。セックスワーカーの多くが貧しい地方の出身で、高収入の仕事を求めてヤンゴンやマンダレーなどの大都市に出てきたという。

ミャンマーの夜の店には必ずといってよいほど白いシャツに黒いスラックス姿のボーイがいる。客引きである彼らの目的は客の世話や女性を斡旋することで得られるチップ。英語や日本語のできるボーイも多い

ミャンマーの夜の店には必ずといってよいほど白いシャツに黒いスラックス姿のボーイがいる。客引きである彼らの目的は客の世話や女性を斡旋することで得られるチップ。英語や日本語のできるボーイも多い

■売春できるだけマシ?

HIV、ドラッグ、精神・身体的な負担、社会的な差別など多くのリスクがある売春。人に言えない仕事であっても、働き口があるだけまだマシ――。こう見る向きもある。

「はっきり言って、何のスキルもない地方の若者が都市部で仕事を得るのは不可能に近い。店に雇われているセックスワーカーは運の良いほう。収入の何割かを店に払う代わりに客の紹介、住居や食事を提供してもらえる。フリーだと今夜客がつくかつかないかが死活問題になる」。タイとミャンマーに合わせて10年以上の滞在歴がある邦人男性はこう話す。

しかし無理な働き方は長く続かない。夜の商売は「若くてスタイルが良いこと」が売りだ。クラブやディスコで客を取れるのはせいぜい20代のうち。また、夜の世界で働く女性(男性の場合も)は家庭が貧しい、片親しかいない、家族が働けないなどほぼ例外なく「ワケあり」だ。そのため客を取れなくなると途端に生計手段をすべて失うケースが多い。

家族を養うため、自立して生活するため、生きるのに必死なセックスワーカーとそれを食い物にする外国人旅行者で成り立つセックスツーリズム。売春が貧困層の「生活の糧」に現実としてなっている以上、売買春をやめろ、とは一概に言えない気もする。

ミャンマーを訪れる観光客は2015年に初の450万人を突破し、民主政権が誕生した2016年は600万人を超すとミャンマー観光省は予測する。「微笑みの国ミャンマー」が「セックスツーリズム大国」になる‥‥。そんなシナリオは想像したくない。しかし、隣国タイの例をみるように、ミャンマーでも経済と観光業の成長に伴ってセックスワーカーの数が急増し、社会問題化する可能性は大きい。

売り手と買い手がいる限り、セックスツーリズムはなくならないだろう。ただせめて売春問題やそれに伴う未成年労働、HIV問題を社会に訴えたり、社会的弱者のための職業訓練の機会を設けてはどうか。今がほぼ野放し状態だとすれば、こうしたセックスワーカーの状況を改善するためにできることは少なくないはずだ。

気づけば時刻は深夜の1時。ミャンマーにはその国民性らしく健康的な発展を遂げてほしい。こんな思いを胸に秘め、私は人けが引いたクラブを後にした。(おわり)