タックスヘイブンが途上国を食い尽くす、パナマ文書について稲場雅紀「動く→動かす」事務局長に聞く

0425廣瀬さん、P1050028「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長

タックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴いたパナマ文書が流出したことを受け、5月26~27日に開かれる伊勢志摩サミットでもタックスヘイブンについて議論される見通しだ。タックスヘイブンの問題を「途上国開発の文脈」でとらえるとどうなるのか。国際協力NGOのネットワーク組織「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長に話を聞いた。

■独裁政権の財源に

――タックスヘイブンは、途上国の支配層にも利用されているのか。

「途上国では独裁者や腐敗した高級官僚らが、タックスヘイブンや類似のさまざまな制度を使って、先進国の金融セクターと共犯関係を結び、腐敗や蓄財に励んできた。その国の発展に本来は還元されるべき国富を、一部の支配層が私物化してしまうところに大きな問題がある。

古い話だが、ザイール(現在のコンゴ民主共和国)の故モブツ・セセ・セコ元大統領(在1965~97年)が不正に蓄財した財産はおよそ50億ドル(現在のレートで約5400億円)だった。これはザイールが当時抱えていた借金と同じ額だ。

モブツ元大統領は、国から奪った富を使い、30年以上にわたって独裁を維持していた。独裁政権を維持するためには、反対者を弾圧しているだけではダメだ。国内にいるさまざまな勢力を懐柔して従わせる必要があり、そのために膨大な資金は欠かせない。この構造を支える仕組みがタックスヘイブン。モブツ元大統領はフランスでたくさんの古城を買い込んでいたことでも有名だ」

――タックスヘイブンは途上国の開発を遅らせると思うか。

「モブツ元大統領のような例はまれではない。独裁者が国富の数10%も不正蓄財し、タックスヘイブンに預けるというケースはたくさんある。そういった例が証拠を伴って今回明るみになったのがパナマ文書だ。

不正蓄財した独裁者が国を追われても、お金は戻ってこない。秘密口座に預けられた場合はプライバシーの壁に覆われているからだ。巨大な富が流出しなければ、その分、国の開発にお金が使われ、貧困や格差はいまのようには広がらなかったのではないか」

■累進課税ができない

――先進国の企業はどうか。

「先進国の企業は、税逃れにタックスヘイブンを使っている。途上国で事業活動してもうけたお金は本来、その国に税としてリターンするのが基本。だが徴税を合法的に逃れられるのがタックスヘイブンという仕組みだ。

先進国の企業が、自社が利益を得た国に税金をきちんと納め、途上国側の汚職・腐敗をなくしていけば、社会開発や経済開発にそのお金を回すことができる。タックスヘイブンの利用は、途上国の開発に充てる資金を失っていることを意味する」

――タックスヘイブンは格差を拡大させているのか。

「タックスヘイブンの存在は、途上国・先進国を問わず、国家の税徴収力を弱めている。いまや、税金で所得分配機能を強化し、貧困対策を打ちたくても、累進課税の強化ができなくなってしまっている。先進国の企業を含め、富裕層が税率の低い国に資産を移してしまうからだ。その結果、世界中で格差がどんどん広がっている。

パナマ文書で告発されたのは、グローバル経済の『負の部分』。世界で権力を握っているのは富裕層だから、タックスヘイブンの存在や税逃れを取り締まるような法律をすぐに作るのは難しいかもしれない。しかしこのままだと、一部の富裕層に世界は食い尽くされてしまう。実際、オックスファムが2015年に出した報告書によれば、世界の資産保有額の上位62人の総資産は、下位50%に当たる36億人の総資産に匹敵する。

ひとつのヒントは、こうしたやり口で蓄財できる富裕層は世界人口の中で極めて少数だということだ。怒りを感じる私たち一般市民こそが多数派だ。私たちは『多数者の不満と怒り』を力にして、世の中を変えるよう働きかけていく必要がある」