【ganas×SDGs市民社会ネットワーク⑤】「貧困解決への航海図を失った」、グローバル連帯税フォーラムの田中徹二代表理事に聞く

0128名竹さん、IMG_0077グローバル連帯税フォーラムの田中徹二代表理事。1947年北海道生まれ。1968年北海道教育大学札幌分校中退。2008年4月江戸川区役所退職。2004年よりオルタモンド事務局長、2011年よりグローバル連帯税フォーラム代表理事を務める。

貧困をどう解決するのか、その道筋は具体的にない――。開発業界のキーパーソンへのインタビューを通じ、「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げる17の目標の意義や取り組みを紹介していく連載「ganas×SDGs市民社会ネットワーク」の5回目。今回は、グローバル連帯税フォーラムの田中徹二代表理事に、「目標1:あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」(具体的なターゲットはこちら)について聞いた。田中氏は「貧困解決に不可欠な国際的な枠組みの策定が進まない」と実情を訴える。

■グローバリゼーションは失敗?

――貧困の解消に向けて国際社会は何をしているのか。

「国際社会は15年以上も、貧困の解決に取り組んでいる。2000~15年に掲げたミレニアム開発目標(MDGs)も、その後継となったSDGsも、貧困の解決を第1の目標に定めている(MDGsの目標1『極度の貧困と飢餓の撲滅』、SDGsの目標1『あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる』)。

しかし、全世界が一丸となり、どうやって貧困を根絶するかという方法は、2008年のリーマンショック以降消えてしまった。貧困をゼロにするというゴールは決まっているが、そこに至る航海図がないという状態。SDGsは、課題を羅列しているだけだ」

――貧困を根絶する方法とは何だったのか。

「2000年の国連ミレニアム総会以降、国連と国際社会は『グローバリゼーション』の推進を貧困根絶の主な方法に位置付けてきた。ヒト・モノ・カネ・情報が自由に国境を越え、経済活動することで生み出された利益を途上国へ還元させ、貧困をなくすというやり方だ。

MDGsのもととなるミレニアム宣言(2000年)には『今日我々が直面する主たる課題は、グローバリゼーションが世界の全ての人々にとり前向きの力となることを確保すること』と明記されている。2009年のG8ラクイラ・サミットまで、国連やG8などの首脳会議で開発を語るとき、グローバリゼーションがキーワードに挙げられていた」

2000年から2009年まで、グローバリゼーションを進め、貧困を解決するとの明記があった。しかし2010年以降、グローバリゼーションの記載は消えた。貧困解決の方法はなくなったという

2000年から2009年まで、グローバリゼーションを進め、貧困を解決するとの明記があった。しかし2010年以降、グローバリゼーションの記載は消えた。貧困解決の方法はなくなったという

――2009年以降、貧困をなくす方法としてグローバリゼーションがなくなったのはなぜか。

「リーマンショックで金融危機に陥り、財政が厳しくなった欧米や日本などの先進国は、政府開発援助(ODA)の拠出額を絞った。まずは自国の経済を守るという内向きの風潮だ。また途上国も食料危機に陥り、飢餓人口が増えた。

グローバリゼーションは中国やインドなどの新興国に経済発展をもたらした。世界の貧困人口は大幅に減った。とはいえ数十億人がいまだに貧しい暮らしを強いられている。

『1%(超富裕層)対99%(中間層・貧困層)の世界』と揶揄されるように、経済格差・不平等はとてつもなく拡大してしまった。その結果、グローバリゼーションの推進が必ずしも貧困根絶の有効な方法ではないのではないか、という認識が広がった。開発の分野でもグローバリゼーションを表立って推進できなくなり、この言葉が消えた」

■タックスヘイブンなくせばODA不要?

――SDGsに貧困解決策はないのか。

「国連がかつてグローバリゼーションを推し進めたような、国際社会が共通の認識をもつ貧困削減方法はない。SDGsの中には『多くの開発の課題に対応するため、ICT(情報通信技術)や科学技術イノベーションを活用する』とある。だがこれは途上国がそれなりの経済レベルに達さなければ絵に描いた餅。貧困解決のための処方箋とはいえない」

――国内外の経済格差に各国はどう対処していくのか。

「経済格差をなくすには、国際協調による仕組みを構築することが欠かせない。

そのひとつが、タックスヘイブン(租税回避地)への対策だ。タックスヘイブンには2010年時点で約3300兆円が秘匿されているといわれる。失われる税収に換算すると年間約30兆~45兆円。うち途上国が失うのは19兆円だ。先進国が途上国を援助するODA総額は2014年で約16兆5000億円。タックスヘイブンに流れたお金にきちんと課税できればODAは要らないといえる。

OECD(経済協力開発機構)とG20は現在、タックスヘイブンを使った税逃れに対処するためBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを実施している。だが成功のカギとなるのは、先進国だけでなく、タックスヘイブン地域を含む途上国の協力だ。

国際協調を進めることで、新たな公的資金を生む『革新的資金メカニズム』の創出にも期待したい。具体的には、14カ国ですでに実施されている『航空券連帯税』や、現在EU(欧州連合)加盟10カ国で模索中の『金融取引税』などだ。こうしたグローバル税制で開発資金を確保できればいい」

■トランプ大統領に困惑

――2016年から、Brexit(英国のEU離脱)や米国でのトランプ大統領の誕生といった自国優先主義が支持されている。国際協調は今後、進むか。

「わからない。国際社会は今、トランプ大統領の出方を見守っている。タックスヘイブンなど、国際協調が不可欠な貧困対策も今後どうなるかわからない。

自国優先のためにトランプ大統領は、メキシコに工場を作った米国の自動車メーカーを脅かし、工場を米国に戻すことで雇用を確保しようとしている。米国の自動車工場がメキシコに進出したのは、NAFTA(北米自由貿易協定)により関税がゼロになって、メキシコの安い労働力を使うことが可能になったからだ。

ただ忘れてならないのは、NAFTAはメキシコ側でも大きなマイナスを与えたこと。農業は自由化され、米国産の安い農産物がどっと入ってきた。このためメキシコの零細農家は農業を続けられなくなった。1000万人を超える農民が米国への移民を余儀なくされた。トランプ大統領が米国の雇用を守ろうとするのであれば、本来はメキシコの農民にも配慮しなければいけない」

――米国の雇用問題は一国で解決できるほど単純ではない、と。

「NAFTAという、行き過ぎた貿易自由化(グローバリゼーション)が、米国とメキシコ双方の労働者・農民から仕事を奪った。経済力が圧倒的に強い米国が強引なやり方で自国の雇用・貧困問題を解決しても、メキシコとの経済格差は広がるばかりだ。

グローバリゼーションが進み過ぎたため、深刻となった経済格差を国際協調で克服しない限り、貧困は解消できない。ところが国際協調に背を向ける指導者が、国際政治に最も影響力のある米国に現れてしまい、困惑している。SDGsの目指す『誰一人取り残さない』という理念を実現するため、国際社会は今こそ、奮闘しなければならない」