「娘には高校を卒業してほしい」、ミャンマー人の母心

娘を学校に行かせるために懸命に働くカインさん(ミャンマー・ヤンゴンで)

「自分が病気になっても、私は家族を支え続ける。娘にはなんとしてでも高校を卒業してほしい」。ミャンマー・ヤンゴン市北部のラインタヤ地区にある縫製工房で働くカインピューピューさん(36)はこう力強く話す。カインさんの夫は2年半前から重い病気にかかり、現在も自宅療養中。カインさんが一家の大黒柱として娘3人を含む5人家族を養う。

カインさんは農村出身。幼いころから成績はあまり良くないものの、自分が身に付けた知識を国の発展を担う子どもたちに伝えたいと思い、教師を目指した。しかし彼女の家庭には金銭的な余裕がなく、カインさんが15歳の時、両親は彼女に働くことを強要したという。

カインさんはその後、結婚し、娘も3人授かった。当時は夫が働いていたため、もう一度先生になろうと試みた。だが娘3人の育児や家事など仕事以外でも大忙しのカインさんは過酷な職業だと断念した。

そんな彼女が唯一「先生」になれる時間がある。娘たちに勉強を教える時だ。カインさんの得意科目は歴史。「歴史は暗記することが大切。そうすれば頭の中に入ってくるはず」とにこやかに語る。

娘たちの「先生」になることを通して、誰かに教える楽しさを実感する一方、悲しい現実もある。カインさんは高校1年で中退したので、それ以降の勉強を教えることができない。「これまでは私が家で勉強をサポートしてきたけれど、これから継続することは難しい。経済的な問題を乗り越えたとしても、私のサポートなしで娘たちが授業についていくことができるのか心配だ」と懸念する。

カインさんが最も心を痛めているのが長女のことだ。カインさんは2年前に、ラインタヤ工業団地にある台湾系縫製企業ボガートの工場でストライキを起こし、解雇された。当時中学2年だった長女は学校を辞めざるを得なくなった。現在は仕事に就き、月に15万チャット(約1万5000円)を稼ぐカインさんには及ばないが、安定した収入を得ている。だが、通りすがりの高校生をうらやましそうに見る長女の姿を昔の自分に重ね合わせてしまい、悔しさと申し訳なさが込み上げてくる。

「娘たちには自分が幼いころに感じた辛さや夢を諦めさせるようなことはしないと決めていたのに、長女にはかわいそうなことをしてしまった。長女が妹たちのことを思って働いている以上、下の2人の娘たちには高校を卒業してほしい」(カインさん)