息子との死別で生活困窮、ヤンゴンのスラムに宿る希望の光

スラムヤンゴン市シュエピタ地区で暮らすスーハニーライさん(左)さんとティーダさん(右)

「孫娘2人は私の希望です」

これは衣服の販売で生計を営むビルマ族のティーダさん(54)の言葉だ。彼女は母(87)と夫(56)、孫娘2人(14、12)の計5人で一緒に暮らしている。一家が住むのはヤンゴンのダウンタウンから北へ1時間半ほどの距離に位置するシュエピタ地区。ヤンゴンの中でも貧困層の多い地域として知られる。

ティーダさんはダウンタウンのスーレーパゴダ近くに生を受けた。結婚し子供をもうけ、その息子が結婚してからは、息子夫婦と孫娘2人と一緒に生活していた。ところが11年前に突如、悲劇が起こる。息子が妻の浮気が原因で不仲となり、服毒自殺してしまったのだ。ティーダさん一家は、家計を支えていた息子を失い、経済的に困窮。やむなくシュエピタ地区に移住した。

ティーダさんは現在、ミンガラーマーケットで仕入れた衣類を工場労働者に販売する仕事をしている。夫はホームデコレーションの仕事をしており、1カ月の収入は合計で約20万チャット(約1万6800円)。家は夫が木材で建てたため家賃はかからないものの、食費などの生活費は1カ月約15万チャット(約1万2600円)に上り、生活は楽ではない。またシュエピタ地区は電力事情が悪いうえ、水道も整備されておらず、井戸水での洗濯を余儀なくされるなど生活インフラが整っていない。

このような環境を嫌って、ティーダさん一家はシュエピタ地区から、より住環境の良い別の家に移りたいと考えている。しかし、上の孫娘のイェダナーライさんは数年後に大学受験を控えており、学費を捻出するための貯蓄が必要。現状では経済的に移住できないというのが実情だ。

それでもティーダさんは希望を失っていない。一緒に住む孫娘の将来性を信じているからだ。

イェダナーライさんはヤンゴン外国語大学で外国語を勉強し、観光ガイドとして働くことを夢見ている。2011年に3億2000万ドル(現在のレートで327億円)だった観光収入は2015年には21億2000万ドル(同2167億円)へ6倍以上に急増しているミャンマー。ミャンマー観光省によれば、外国人観光客数は2011年に81万人、2013年に200万人へと増加し、2020年は750万人と見込まれるなど、観光業はミャンマーきっての成長分野だ。

下の孫娘であるスーハニーライさんは絵に興味があり、ファッションデザイナーになるという夢を抱く。これはティーダさんにとっても将来性を感じており、「就いてほしい仕事だ」という。

孫娘2人の将来性をスーハニーライさんが信じて疑わないのも無理はない。年ごとに課される学校の昇級試験では2人とも毎年、「優秀な成績」で合格し、表彰されるほど成績優秀だからだ。

そこにはシュエピタ地区の外からは窺い知れない希望の光があった。