ジンバブエでは夫と死別した女性の財産は奪われる! ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書で明らかに

報告書「『お前には何もやらない』:財産権・相続権を奪われたジンバブエの寡婦たち」の表紙

南部アフリカのジンバブエでは、夫と死別した女性が夫の親族に財産を奪われるのは日常茶飯事だ――。国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は1月24日、女性を差別する習慣から寡婦が貧困に陥る実態を明らかにする報告書「『お前には何もやらない』:財産権・相続権を奪われたジンバブエの寡婦たち」を発表した。寡婦を救うための対策をジンバブエ政府は早急に立てるべきだと訴えた。

■「お前はクズだ。何も渡さない」

この報告書は2016年5~10月にHRWがジンバブエ全10州で寡婦59人にインタビューして作成したもの。インタビューでわかったのは、夫が死亡した途端に家から追い出されたり、追い出すために夫の親族から脅迫や侮辱を受けたりするケースがジンバブエでは常態化していることだ。

HRWのインタビューに対し、寡婦は報告書の中で次のように体験談を語る。

・夫の葬式の後、集まった親族の前で夫のきょうだいから「お前はクズだ。何も渡さない。全部俺のものだ」と言われた。

・夫のきょうだいに畑をすべて奪われた。その畑を歩き回るなと言ってくる。村長に報告しても、物ごとを荒立てるなと。夫のきょうだいは、私たちが苦しむのを見て嬉しいのかもしれない。

・夫の死の直後に、私は食料を確保するために家財道具を売った。それを知った夫のきょうだいが、勝手に売ったとして私を逮捕させた。裁判では無罪になったものの、公判前に1週間、留置所に入れられた。

高齢の寡婦たちにとって、生活を再建する時間も、エネルギーも残っていない。報告書の執筆者であるベサニー・ブラウン氏は「夫と財産をなくした女性が被る影響は甚大。住むところや生活の糧を失い、貧困状態に陥っている」と問題の深刻さを指摘する。

■「慣習婚」は保護の対象外

ジンバブエには実は、寡婦の財産を守る法律がある。2013年に制定された新憲法だ。遺産・財産権などの権利を女性にも平等に保障すると定める。

ところが保護の対象となっているのは「政府に婚姻届を出していた寡婦」のみ。ジンバブエでは、婚姻届を出さない慣習婚がほとんどであるため、法律は“絵に描いた餅”というのが実情だ。

法律の後ろ盾を実質上もたないため、寡婦が自分の財産を守ったり、取り戻したりするのは至難の業だ。家畜を売って裁判費用を捻出するだけでも大変だが、婚姻届を出していない夫婦関係の場合、裁判を起こしても不利な立場になるという。

ブラウン氏は「ジンバブエ政府は、慣習的な夫婦関係を含むすべての婚姻を公式に登録すべき。そうすれば、夫に先立たれた途端に家を追い出されてしまう不条理から、多くの寡婦を守ることができる」とコメントする。

2012年の国勢調査によると、ジンバブエには58万7000人の寡婦がいる。60歳以上の女性の大半が夫に先立たれている。農村の女性の少なくとも70%が慣習姻をするといわれる。

世界では2050年までに全人口のほぼ4分の1、実数で20億人が60歳以上になる見通しだ。高齢の女性を排除する習慣はさまざまな国で残っている。ジンバブエだけでなく、南部アフリカ地域では、寡婦に対する財産剥奪が常態化している可能性が高い、とHRWは懸念する。