「小麦色の肌はフィリピーナのアイデンティティ」、内心は色白への憧れも

1008久保田さん、写真122218149_1935565543431714_711899458_oDREAM WHITE の広告

「DREAM WHITE」。肌を白くする作用があるとされる、こんな名前の新商品がフィリピンで話題を集めている。DREAM WHITEの商品ラインアップは石けん、化粧水、乳液、ボディローションなどたくさんある。だが大半のフィリピン人の肌は「モレナ(ブラウン、小麦色)」だ。色白への憧れが大きい一方で、「私のアイデンティティはモレナ」と言い切る女性も少なくない。フィリピーナ(フィリピン人女性)を取り巻く美白事情に迫ってみた。

■美白成分は「麹」だった!

DREAM WHITEを売り出したのは、マニラ首都圏マカティに本社を置く化粧品会社Beauty Elements Ventures(BEV)。DREAM WHITEは、同社が展開する化粧品ブランド「Kojie-san」のシリーズのひとつで、日本の舞妓を思わせる色白の女性がアイコンだ。Kojie-sanというブランド名は、麹に含まれる化合物のコウジ酸に由来する。コウジ酸にはメラニン生成を抑制する美白作用がある、と日本の三省製薬(本社:福岡県大野城市)が1975年に発見している。

「美白になりたいのならKojie-sanがおススメだよ」。フィリピン・ネグロス島ドゥマゲティのシリマン大学に通う女子大生たちはこう話す。フィリピンの有名ファッション雑誌「YES!」にもKojie-sanの広告が一面に掲載されるなど、フィリピン人女性の間でKojie-sanは浸透している。YES!には、白い肌のフィリピン人セレブのモデルが多く登場するが、広告にはこんな強烈な一文がある。「この雑誌に載っている多くのセレブの肌は私たちが白くしたかもしれない」

DREAM WHITEの商品ラインアップの中で最もお手軽なのは石けんだ。寝る前に塗ると美白効果があるとされる。値段は2つで69ペソ(約150円)。フィリピン(ドゥマゲティ)の1日当たりの最低賃金が310ペソ(約685円)ということを考えると、石けんひとつの値段は日本の感覚にして1000円ぐらいに相当する。

雑誌に載っている芸能人は色白のフィリピン人ばかり

雑誌に載っている芸能人は色白のフィリピン人ばかり

■フィリピーナの常識「グルタチオン」

ドゥマゲティの薬局には、Kojie-sanブランド以外の美白化粧品も多く店頭に並ぶ。アジア最大の薬局チェーン「ワトソンズ」(ドゥマゲティ・シティモール店)で調べたところ、売られていた美白化粧品はおよそ100種類もあった。

店の一番の売れ筋は、GTCOSMETICS MANUFACTURING(本社:セブ州リロアン市)が作る「BLEACHING SOAP(脱色ソープ)」だ。1つ88ペソ(約190円)。女性の店員は「これはおススメ。私も家で使っている。1日平均で10個も売れている」と人気ぶりを語る。

美白効果のある化学物質として、20~50代のフィリピン人女性がみんな知っているのが「グルタチオン」だ。グルタチオンはコウジ酸と同様、メラニンの生成を抑制する作用をもつ。石けんだけでなく、注射やカプセルとしても販売されている。ドゥマゲティのショッピングモール、ロビンソンズに入居する店で売られていたグルタチオンを含むカプセルは60粒で1200ペソ(約2600円)。コメ50キログラムとほぼ同じ価格と驚くほど高いが、それでも購入する人は増えているという。

■色白はステータスが上!

フィリピンでは肌の色が「ステータス」と直結しやすい。傾向として肌が白いほど、階級や所得が高い人が多い。TVや雑誌で見る芸能人は色白がほとんど。対照的に、農民をはじめとする庶民は色黒だ。

ドゥマゲティ近郊のバレンシア町に住む27歳のフィリピン人女性は「この国では肌が白いと仕事でも日常生活でも多くのアドバンテージを得ることができる。金銭的な余裕があることの証明にもなる」と話す。

色白がステータスとなる理由のひとつに、300年以上にわたったスペイン支配の影響がある。白人との混血女性「メスティサ」が生まれ、彼女たちのステータスが大多数の庶民より上だったからだ。ドゥマゲティ中心部から車で40分のところにあるサンボアンギータ町に住む女性によると、日本人や韓国人も肌が白ければ、“メスティサ”のようにみなされるという。

■「色白にならなくても良い」が過半数

肌を白くする製品が出回る一方で、街中の女性の声は複雑なようだ。ドゥマゲティとバレンシアで46人の女性を対象に「色白になりたいですか」と街頭アンケートをした結果、「なりたくない。モレナがいい」と答えた女性が28人と過半数に上った。その理由は主に3つある。

1つは「モレナはフィリピン人のナチュラルな肌の色だから」(19人が回答)というもの。「常夏のフィリピンで肌を白くするという行為は矛盾している」「生まれつきの肌の色を気に入っている」というのが彼女らの主張だ。

バレンシアに住む親子(54歳、14歳)はそろって「モレナはフィリピン人のアイデンティティ」と答えた。14歳の少女は「クラスの友だちは色白になりたくて美白効果のある石けんを使っている。でも私は好きじゃない。私は農家の生まれ。モレナが私のナチュラルな肌の色」と語る。

モレナ派美女の象徴的な存在が、ミス・ユニバース2015で優勝したピア・ウォルソバッツさん(28)だ。彼女は美しいモレナの肌をもつ。フィリピンの2大テレビ局のひとつABS-CBNが9月30日に主催した、フィリピンのセレブが集結した一大イベント「Star Magic Ball2017」で「最も輝いているスター」に選ばれたのも、モレナのキャスリン・ベルナルドさん(21)だった。2人とも、多くのフィリピン人女性から支持を集める。

■白くなるにはお金がかかる

2つめの理由は金銭的な問題。8人が「色白になるにはお金がかかる」と回答した。美白になりたいと答えた人も「具体的に何をしているか?」という問いには、9割以上が「ほとんど何もしていない。注射やローションはお金がかかるから石けんを使うくらい」。

意外だったのは、美白ケア商品として日本でポピュラーな「日焼け止め」を使っている人がゼロだったこと。最低でも300ペソ(約660円)はするという値段の高さが敬遠されるようだ。

3つめの理由は健康への心配。生まれもった肌の色を化粧品や薬品で無理に白くするにはリスクを伴う。サンボアンギータの英語学校の女性教師は「美白商品を使うと確かに肌は白くなる。でもその白はナチュラルな白ではなくて、ブリーチ(脱色)したような不自然な色。明らかに肌に良くない」と話す。また、ドゥマゲティの薬局に勤める女性店員は「美白化粧品を使っている間はなるべく外出を控えなければいけない」と注意を喚起する。

紫外線から肌を守る役割を本来果たすメラニン。コウジ酸、グルタチオンなどの化学物質で生成が抑えられると、水ぶくれや炎症、皮膚がんなどの原因にもなるといわれる。

ドゥマゲティ近郊は農業をする女性が大半を占める地域。炎天下で1年中仕事をする農民にとって、白い肌を保ちながら生活することは困難だ。フィリピン人女性の乙女心は憧れと現実のはざまで揺れているのかもしれない。

DREAM WHITE。2つで69ペソ(153円)。日本の舞妓を思わせる色白の女性がアイコン

DREAM WHITE。2つで69ペソ(153円)。日本の舞妓を思わせる色白の女性がアイコン

ワトソンズ(ドゥマゲティ・シティモール店)の売れ筋美白化粧品「BLEACHING SOAP(脱色ソープ)」1個88ペソ(約190円)

ワトソンズ(ドゥマゲティ・シティモール店)の売れ筋美白化粧品「BLEACHING SOAP(脱色ソープ)」1個88ペソ(約190円)

「この雑誌に載っている多くのセレブの肌は私たちが白くしたかもしれない」(フィリピンの有名ファッション雑誌「YES!」に載っていた広告から)

「この雑誌に載っている多くのセレブの肌は私たちが白くしたかもしれない」(フィリピンの有名ファッション雑誌「YES!」に載っていた広告から)