貧困を解消できるソーシャル・ビジネスの相棒は「携帯電話」にあり、ユヌス氏が訴え

0223篠田さん都内の浜離宮朝日ホールで2月21日に開かれたシンポジウム「ソーシャル・ビジネスで未来をつくろう」でPHCについて発表するナズムル・ホセイン氏

「携帯電話を持つ人口は絶対に増える。それをソーシャル・ビジネスに生かさない手はない」。これは、マイクロクレジット(無担保の少額融資)の草分けであるグラミン銀行(バングラデシュ・ダッカ)の創設者でユヌスセンター代表のムハマド・ユヌス氏の言葉だ。社会問題をビジネスで解決する方法を考えるシンポジウム「ソーシャル・ビジネスで未来をつくろう」(主催:朝日新聞社、九州大学)で基調講演とパネル討論に参加したユヌス氏は、貧困解消の切り札として携帯電話の可能性に注目する。

基調講演の中でユヌス氏は「(バングラデシュの)農民に携帯電話を与えることで、どこの市場でどの農作物が必要かという情報を農民が得られるようになる。そうすれば、どこの市場に何を卸すか、農民の選択肢は広がる」と“ケータイ効果”を述べた。また、携帯電話を教材として導入した学校も運営しているという。

ユヌス氏がいま特に力を入れているのは、母国バングラデシュで高齢者向けの携帯電話を普及させることだ。この携帯電話は、グラミンファンデーションの資金をもとに独自に開発したもの。機能は日本で使われているものとほとんど変わらない。値段の安さが特徴。農村で暮らす低所得者層にも携帯電話を普及させることが狙いだ。

グラミン銀行らしい機能として、押すだけでグラミンコールセンターにつながるボタンが付いている。緊急の連絡から悩み事の相談まで受け付ける。識字率が60%程度(農村はもっと低い)のバングラデシュでは、電話がコミュニケーションの主な手段。この高齢者向け携帯電話は、文字が書けなくても読めなくても、誰でも使える仕様となっている。

シンポジウムではまた、九州大学大学院システム情報科学府にある「ソーシャルテクノロジーラボ」のナズムル・ホセイン氏とジェシンタ・カマウ氏が、医師の少ない村の住民を対象にしたソーシャル・ビジネスの成功例として「ポータブルヘルスケアクリニック(PHC。持ち運べるヘルスケアクリニック)」を紹介した。PHCは、携帯電話やインターネットを利用したプロジェクトだ。ソーシャルテクノロジーラボが考案した。

PHCでは、さまざまな検査機器を入れた「ヘルスクリニックボックス」と呼ばれる箱を用いる。検査機器を使って、住民の健康情報をデータ化、管理する。

住民は体調が悪くなると、ボックスを持つ「ヘルスケアレディ」のところへ行く。ヘルスケアレディはボックスの中の機器を使えるようトレーニングされていて、患者の容体を調べ、そのデータを、都市に住む医師に送る。それをもとにスカイプなどを使い、医師が診察する。処方箋も出してもらえる。一人ひとりが携帯電話を持っていなくても、インターネットの力を借りて誰もが医療サービスを受けられるのが特徴だ。

このプロジェクトは当初、計画だけで機動性に欠けていた。そこでソーシャルテクノロジーラボはユヌスセンターにアプローチ。いまではグラミン・ファミリーの携帯電話ネットワークを利用する形で、PHCをバングラデシュで普及させることに成功した。

ナズムル・ホセイン氏は「アカデミアとインダストリー(産業)の出合いこそが社会を変える力を生む。いすに座っていても、また社会問題に目を向けないのもダメ。協力しよう」と呼びかける。アイデアがあってもそれを実現する術を持たないソーシャル・ビジネスは多くあるという。アイデアとモビリティ(携帯電話を使ってどこでも利用できること)を合致させることがこれからのソーシャル・ビジネス普及のカギになりそうだ。