恋人探しもナンパもSNSで! スマホの普及が起こすミャンマーの恋愛革命

恋人探しにはスマホを頼っても、やはり一対一のデートは必要だ。ヤンゴン市内の公園の木陰でひとときを過ごすミャンマー人カップルたち

「WeChat」で好みのタイプの異性を検索し、「Viber」で写真やチャットのやりとりを重ねる。気が合えば直接会ってデートをし、写真はもちろん「Facebook」でシェア。スマートフォンを最大限に活用したこんな恋愛が今、ミャンマーの若者の間で流行っている。

■仕事から恋人探しまでスマホ一台

ヤンゴンにある日系の不動産仲介業者に勤めるエインゾーさん(カレン族、28歳)は「スマホ中毒」を自称する若者の一人だ。「スマホなしの生活は考えられない。恋人探しはもちろん、仕事まで頼りきっているから」と打ち明ける。

そんなエインゾーさんが異性の友だち探しによく使うのがSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)アプリケーション(アプリ)だ。使用頻度の高いアプリは中国発のWeChatやシンガポールのBeeTalk。これらは「出会い系SNS」と呼ばれ、アプリを介して異性と知り合うことがきるのが特徴。早い話が“出会い系サイトのスマホ版”だ。

WeChatやBeeTalkにはある特別な機能が備わっている。見ず知らずの異性を「年齢」や「性別」で“検索”し、“ラブレター(友だち申請)”まで送れることだ。さらに、スマホの位置情報をオンにすれば、相手との距離までわかる。いとも簡単にナンパができてしまうのだ。

そのためか、プロフィールには男女ともに異性の気を引くためのこだわりがある。「本当の恋を探しています」「顔写真がない人とはチャットしません」と自己紹介スペースで宣言するもの。「のろけ顔」や「アヒル口」の自撮りを投稿したり、色白にこだわって写真アプリで加工した「美白写真」を載せるのもよくあるアピールだ。

出会い系SNS「BeeTalk」で「20代」「女性」「近所」と条件付きで検索したところ、45人の該当があった。スマホの位置情報で相手との「距離」をもわかり、街中ナンパにも使われる

出会い系SNS「BeeTalk」で「20代」「女性」「近所」と条件付きで検索したところ、45人の該当があった。スマホの位置情報で相手との「距離」をもわかり、街中ナンパにも使われる

■SNS恋愛で振られても傷つかない

ミャンマーで恋人探しといえば、一昔前まで親や知り合いに紹介してもらうのが主流だった。しかし、そんな古風なミャンマーの“恋愛常識”は、急速なスマホの普及と出会い系SNSの登場によって塗り替えられつつある。

「SNS恋愛」の浸透はミャンマーの若者にとって、恋愛へのハードルを格段に下げた。「SNSで知り合って失恋してもそれほど傷つかない。だって他にも相手は大勢いるから」。あるミャンマー人の男性(ビルマ族、23歳)はこううそぶく。

ミャンマー国民の携帯電話保有率は2015~16年に約9割に達し、今では庶民の多くが日常的に携帯電話(多くが中国や韓国で製造された1万~3万円のスマホ)でコミュニケーションやインターネットを楽しむ。情報が極端に統制されていたミャンマーの軍政時代(1988~2011年)には考えられなかったことだ。

「なんでも携帯電話に頼るから今の若者は人の話を聞かないし、物も知らない」。昔気質なミャンマー人はこう苦言を呈するが、当の若者たちにとってはどこ吹く風。スマホ片手にヤンゴンの街を闊歩する姿は幸せそうだ。

「規則」「伝統」「親」‥‥。今時のミャンマーの若者にとってスマホはこうした昔ながらの価値観から逃れ、「自由」を謳歌するための一つのツールのように思える。こうしたブームの良し悪しはともかく、スマホを利用したミャンマーの近代的な恋愛にはますます拍車がかかりそうだ。

ヤンゴン市内の路上で各種の中古スマホを販売する露店。値段も3万チャット(約3000円)ほどからとお手頃。ミャンマーでは数年前までSIMカードが1枚数万円もしたため、携帯電話は庶民の高値の花だった

ヤンゴン市内の路上で各種の中古スマホを販売する露店。値段も3万チャット(約3000円)ほどからとお手頃。ミャンマーでは数年前までSIMカードが1枚数万円もしたため、携帯電話は庶民の高値の花だった

「ミャンマーの原宿」の別名を持つレーダン地区(ヤンゴン市内)でトリプルデートをするミャンマー人の若者たち。周辺にはショッピングモールや洋服・雑貨店が所狭しと立ち並ぶ

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