カンボジアで「売られる子ども」が激減! 警察の取り締まり能力強化の研修をNGO「かものはしプロジェクト」がサポート

カンボジア・シェムリアップのパブストリート。怪しいマッサージ店が立ち並ぶ。観光客も多く訪れるカンボジア・シェムリアップのパブストリート。怪しいマッサージ店が立ち並ぶ。観光客も多く訪れる

カンボジアで、騙されて売春宿に売られる子どもの数が劇的に減っている。人身売買の解決を目指す国際NGOインターナショナル・ジャスティス・ミッションの調査によると、カンボジアの買春被害者のうち18歳未満の子どもが占める割合は2000年前後の30%から、2015年には2.2%へと激減した。この成功に一役買ったのが日本のNGO「かものはしプロジェクト」(東京・渋谷)だ。児童買春を取り締まれるようにカンボジア警察の能力を強化させる研修の内容作りや研修資金として年間300万~500万円を支援した。

■性犯罪・人身売買の逮捕数は9

子どもを買う人がいなければ、売られる子どもはいなくなる――。かものはしプロジェクトは2009年、カンボジア警察、内務省、国連児童基金(UNICEF)、他のNGOとともに、「警察支援(LEAP)プロジェクト」に加わった。LEAPプロジェクトの目的は、児童買春の摘発数が少なかったカンボジア警察に取り締まり能力をつけてもらい、摘発件数を増やすことだ。

研修の柱は、児童買春を取り締まるための法律の内容を理解するための座学と、児童買春の現行犯を逮捕する際にどう動くかを想定した実習訓練。実習訓練では、裁判の証拠として使えるように、容疑者が撮影した児童ポルノの写真や動画を携帯電話やパソコンから消される前に押収することなどを繰り返した。

研修の成果はすぐに数字に表れた。性犯罪・人身売買にかかわる容疑者の逮捕数は、2001年の82件から2010年は720件へと9倍近くに増えた。「(LEAPプロジェクトに)関係する人たちの努力のおかげで、カンボジア警察の児童買春の取り締まり能力が格段に向上したからだ」とかものはしプロジェクトの村田早耶香共同代表は言う。

■買春被害者を留置所で強姦も

LEAPプロジェクトが始まる前、児童買春に対する警官の意識は高くなかった。「治安が良い場所でも、外国人とカンボジアの少女がホテルに入っていく光景は日常的に見られた。ホテルの入り口に立っている警官も犯罪が起きていると認識していないこともあった」(村田共同代表)。警官が児童買春被害者を「売春ビジネスにかかわった悪い人間」として間違って投獄したり、留置所で強姦したりすることさえあったという。

売春はかつて、女の子を売って一生暮らしていける巨額の利益を得られるビジネスだった。だがLEAPプロジェクトがスタートしてから、売春宿の摘発が増加。売春宿のオーナーが農村から少女を買っても、その少女が警察に保護されるため、売春ビジネスは儲けが出なくなった。そのため売春宿の数は減った。

こうしたなかで意識が変わったのは、警官だけではない。児童買春を外国人などに勧誘していたバイクタクシーやトゥクトゥク(三輪タクシー)の一部の運転手たちは「児童買春にかかわらない」とのメッセージが書かれたシャツを着たり、トゥクトゥクにステッカーを貼ったりするようになった。「児童買春に対する抑止力が広がったことで、子どもを買う大人が減った。経済成長で貧困削減が進んだことも大きい」と村田共同代表は話す。

かものはしプロジェクトは児童買春の被害が少なくなったことから、LEAPプロジェクトへの資金提供を終わらせた。

■手に職付けて貧困脱却めざす

かものはしプロジェクトはいま、児童買春から、カンボジアの貧困層を自立させるという新たな使命を果たそうと活動の軸をシフトさせつつある。その柱が、貧困層の女性を雇い、い草などカンボジアの天然素材を使った生活雑貨を生産する「コミュニティーファクトリー」(シェムリアップ州)の運営だ。コミュニティーファクトリーは2008年に始動。貧困エリアから累計で約220人の女性を雇ってきた。

貧困層の女性が手に職を付けられれば、極度の貧困から抜け出し、子どもを売ることはなくなる。コミュニティーファクトリーで働く女性たちは実際、自分の子どもを学校に行かせられるようになった。

コミュニティーファクトリーで作ったコースターや名刺入れを、かものはしプロジェクトは「I ♡(ラブ)Cambodia」というブランドでカンボジア国内の直営店や高級ホテル、かものはしプロジェクトのオンラインショップなどで売る。また2016年3月にはファッションブランド「SUSU」を立ち上げ、カンボジアのい草と皮を組み合わせたトートバックやサンダルなどの販売をスタート。シェムリアップ市内に一号店をオープンし、2017年は日本での展開に力を入れる。

かものはしプロジェクトは今後、コミュニティーファクトリーの女性を対象にライフスキル教育を強化していく方針だ。ライフスキル教育では、読み書き、計算などの基礎スキルから、チームワークなどみんなで協力して仕事をする能力までを学ぶ。最貧困家庭出身の女性たちを自立させることを目指す。