【中国が環境大国になる日(1)】14億の民をエコロジーに導く中国最大の環境団体「緑色浙江」

0926木本さん、写真1_中国可泳周ワイド(小)[1]Jet Gu (顾连杰)撮影

中国最大の環境団体「緑色浙江(Green Zhejiang)」。その若き環境活動家たちは、環境汚染を野放しにしてきた役人を辞職に追い込み、市民を巻き込んで環境モニタリングやリサイクル、ごみの削減を推進する。創設者で代表を務める忻皓(シン・ハオ)さんをはじめとする環境リーダーたちは、マスメディアやSNS、携帯アプリにゆるキャラ、イメージソングまで、あらゆる手段を駆使して中国の環境改善にまい進する。彼らの奮闘ぶりは、そう遠くない将来、中国が環境大国になる日を予感させる。

自国のみならず、韓国や日本にまでPM2.5(微小粒子状物質)の雲で覆いつくしておきながら、国連の気候変動サミットでは、先進国に資金協力と技術支援を要求する中国代表の態度を見ていると、とてもそうは思えないかもしれない。しかし、ひとたび「環境保護」に舵を切れば、速いスピードで目標に向かって突き進むのが中国だ。14億の国民が同じ方向に歩みだせば、過去20年で成し遂げた経済成長以上に劇的な変化をもたらすのではないか。

この連載では、韓国・光州で開催された第4回東アジア気候フォーラムで報告された中国の5つの環境団体の活動を紹介しながら、途上国の環境問題を解決する“中国モデル”について考えてみたい。

■泳げる川を取り戻せ!

川に飛び込む人の群れ。向こう岸には高層建築が見える。どうやら大きな都市のようだが、トライアスロンの競技でもしているのだろうか…。

写真に写っているのは中国浙江省を流れる運河の銭塘江(せんとうこう)で、場所は浙江省の省都、杭州市のど真ん中。浙江省は上海に隣接し、1人当たり国内総生産(GDP)で中国国内トップ5に入る富裕な省で、杭州市は人口600万人を超える大都会だ。浙江省は他の省と比べて工業生産高が多くかつ中国資本の中小・中堅企業が多い。

日本人の感覚では、都市の運河で泳ぐというのは抵抗を感じるが、その場所が環境対策に問題がありそうな中小の工場に囲まれた中国の大都市と聞けばなおさらだ。中国の運河で泳ぐ人たちは、汚染された川の水で体を壊したりしないのだろうか。

運河で泳ぐイベントを主催する「緑色浙江」の忻さんは「私たちは何度も川で泳ぐ会を開催し、すでに多くの人々が参加しています。私も何度も参加しましたよ。向こう側まで40分くらい泳ぎます」と至って元気そう。

このイベントが始まったきっかけは、浙江省の温州市にある有名な眼鏡店の社長の「この川を泳げるほどきれいにしたら200万元(約3400万円)あげるよ」という一言だったそうだ。

泳げるほどきれいな河を取り戻すために、この10年あまり、忻さんたちは実にさまざまな活動を行ってきた。水質保護のグループと連携をはかり、河川の清掃活動をテレビ局に取材させたり、汚染を見つけた人が気軽に通告できるアプリを開発し、汚れた川にうんざりしていた市民たちを保全に巻き込んだりと、PRも実に巧みだ。

■討論番組で役人2人が辞職

杭州は世界遺産に登録された西湖のある都市。秦の始皇帝の時代から続く風光明媚な景色は水ときっても切り離せない。それだけに、もともと市民の水に対する関心は非常に高かったようだ。

それを示すのがテレビの討論番組「問水面対面」だ。この番組では、河川管理を担当する役人と市民とが水質汚染の原因や責任、改善の方法について意見を交わし、熱い討論が繰り広げられたという。

「番組終了後、番組に登場した3人の役人のうち2人が辞職しました」と、さらっと言ってのける忻さん。途上国では環境規制ができても、改善を伴わない“ざる法”になりがちだ。企業が役人に賄賂を渡してお目こぼしというのはよく聞く話。そうした悪習を許さないために、「緑色浙江」はマスメディアやSNSの微博(ウェイボー)を駆使して情報公開に積極的に取り組んできた。

環境問題とは“環境情報”の問題でもある。水、大気、土壌などの基本的な環境モニタリングと情報公開がなければ対策も講じようがない。「緑色浙江」の活動報 告から、中国ではようやく環境情報の収集と公開が定着してきたことが読み取れる。一方で、情報公開により問題の原因や責任の所在が明らかになれば中国人の 行動は速い。

■ゆるキャラ大好き「小皇帝」がリサイクルをリード

食品残さのたい肥化とそれを使った有機農法による野菜づくり、ごみの分別による資源回収など、緑色浙江の活動は市民生活のあらゆる分野に広がりを見せている。日本のNGOから学んだ廃油石鹸づくりでは、すでに1万個以上をつくったという。

ここ最近、子どもたちを中心にファミリー層の人気を集めているのが、「リサイクル・パンダ」だ。

パンダのゆるキャラを使って古着の回収を始めたところ、子どもたちに大人気。パンダに会いたい子どもたちにせがまれて親世代もクローゼットの整理・リサイクルに目覚めるようだ。さらに、リサイクルを1回で終わらせないために大学生の発案で始まったのがパンダの衣装替え。パンダの衣装を変えるとその度に子どもたちは新しい衣装のパンダに会いたがり、繰り返し古着が集まるという。

一人っ子政策で「小皇帝」と揶揄されるようになった子どもへの溺愛も、緑色浙江は資源再利用のためにうまく利用している。

Jet Gu (顾连杰)撮影

Jet Gu (顾连杰)撮影

■消費者にそっぽ向かれるのが怖い

経済発展を優先し、「環境は二の次、三の次」と思われていた中国だが、深刻な健康被害に直面し、市民も「No!」を突き付けはじめている。

日本企業や北九州国際技術協力協会などで働き、日中の環境問題に詳しい東アジア環境情報発伝所理事の姜晋如(ジャン・ジンル)さんによると、日本や欧米の大企業は規制を守らざるをえないが、問題は中国人が経営する下請け企業とのこと。

「外資の大手企業の下請けがどこまであるか把握するのは困難です。4次、5次請けともなれば目も届きません。中央政府は地方政府に対してGDP成長目標を課しており、地方の官僚は、目標達成しなければ偉くなれないので、環境対策は手薄になり、結果として末端の工場で働く人や住民が健康被害にあうという悪循環を招いています」(姜さん)

では、中国の環境問題の改善に、最も効果的なのはどんなやり方だろうか。

「いちばん効くのは、市民が“No!” を突きつけること」と姜さんは言う。巨大な消費市場となった中国は企業にとって大事なお客様。お客様にそっぽを向かれるほど怖いことはない。一方、市民に よる不買運動や工場の操業停止などで企業の収益が落ちれば、地域経済も打撃を被るため、経済成長を優先する地方政府にとっても痛手となる。

世界の工場から世界のお客様になった中国。その環境問題の解決を後押しするためには、政府を当てにするよりも、市民による草の根の環境運動を応援するほうが 効果的といえそうだ。そして、その市民たちを主導するのは、高度な教育を受け戦略的に行動する若者たちだ。この環境意識の高い“新エリート層”ともいえる 人々の精力的な動きを見ていると、日本人など“空気を読んでいる”間に環境対策でも中国に追い抜かれてしまうのではないかという気がしてくる。